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2017/05/07

君はゾンビなフレンズなんだね 『死の相続』 セオドア・ロスコー、横山啓明 訳 / 原書房 ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ

Photo(「あのミステリ黄金時代の、あの女王のあの著名作品」を話題にした手前、それに先んじたこの怪作を取り上げないわけには……)

ハイチに住む実業家が死に、屋敷には七人の相続関係者が集められた。「私の遺体は丘の上に深く埋め、棺には杭を打ちこむこと。財産は第一相続人にすべてを譲る。ただし、第一相続人が二十四時間以内に死んだ場合、第二相続人が権利を得る。第二相続人が二十四時間以内に死んだ場合には第三……」と奇妙な遺言が読み上げられる。遺言書をなぞるように屋敷では相続人が奇怪な死を迎えていき、そして最後に残された第七相続人に……。
 (『死の相続』カバーに書かれた内容紹介より)

紹介文からして奇妙奇天烈、なんとも濃いB級インプレッションだが、実際、この実業家(アンクル・イーライ)の弁護士、ピエール・ヴァラーンタン・ボンジャン・トゥーセリーネが語り手の売れない画家、E・E・カーターズホールの部屋に登場する冒頭から物語は禍々しさの発酵、熟成、腐敗一本道、カーターズホールの恋人にしてイーライの相続人、パトリシア・デイルを連れ立っていざゆかんハイチの旅、そこに待ち受けるは……。

ピンを刺しておきたいのは、この『死の相続』がパルプマガジンに発表されたのが1935年だという、そこのところだ。

これは閉ざされた空間に集められた関係者が順に死んでいく、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』(1939年)より数年早い。
さらにいえばヴードゥー教のゾンビが登場する点においてジョージ・A・ロメロの映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)にももちろん先駆けている(「棺には杭を打ちこむ」のは、死体がゾンビとして復活しないための呪法)。

じっとり湿度の高いハイチの夜の雨、いずれ一癖も二癖もありそうな相続人たちは互いに反目し合いつつ、一人二人と謎の死をとげていく。
異様な熱気に引きずられるサスペンスといえば例の『赤い右手』が思い起こされる。書斎、パイプ煙草、衒学趣味と、つまりはちょっと知的にスカした雰囲気が定番のミステリ群の中で、強引な怪奇性と暴走のスピード感で読み手の生理に訴える、とでも言うか。

ところが『死の相続』が凄いのは、読了後、振り返ってみれば本格ミステリとしての約束ごとがそれなりに一気通貫守られているということだ。少なくともトリック、プロットは冷静な知性の産物である。奇妙な遺言、黒人ゲリラの蜂起、ゾンビの跳梁、と、大昔の冒険映画のような書割の中で(動機に見合っているかどうかはともかく)フーダニット、ハウダニットについては終盤まで丁寧に読めば演繹的に割り出すことが可能なはずである。
──もっとも、導き出したうえで「バカミスだぁ!」と声を上げることにはなるのだが。

ちなみに、この『死の相続人』、雑誌掲載時のタイトルが A Grave Must Be Deep! だったのはまだしも、加筆、単行本化された際のタイトル Murder on the Way! は何だかよくわからない(「途上の殺人」?)。
邦題もウィリアム・アイリッシュあたりにありそうな『死の相続』などより、ここは一つ『ZOMBEREAVED 死霊の相続人』などではいかが。

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