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2017/04/21

『カメントツのルポ漫画地獄』『カメントツの漫画ならず道(1)』 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

Photo石灯籠の影に幽かな気配がある。
「(殿、お呼びにございますか)」
池の鯉にエサを投げながら、
「む。半蔵か。ほかでもない、出版不況、とくに紙媒体の危機が叫ばれて久しいの」
いつの間にか石灯籠の反対側に姿を現し、平伏する半蔵。
「御意。かつてなら駕籠に乗ってスポーツ紙、マンガ週刊誌、文庫本を手にせぬ者はおりませんでした。近頃は老いも若きもスマホ、スマホ」
「む、あれは便利ぢゃ。合戦の日付を秀ちゃん光っちゃんとLINEで相談したり、陣の取り方をググったり」
「とは申せ、『ワンピース』『進撃の巨人』、村上春樹、少し前でしたらハリー・ポッターの平積みを見れば、紙の本のニーズが全くなくなったとも思えませぬ。版元が最善の努力、工夫を重ねているかと申せば、いささか」
「うむ、ひとたび勝鬨をあげるとなかなかほかに足は踏み出せぬものぢゃ。誰もがデヴィッド・ボウイ、孫正義になれるわけではあるまい」
「紙媒体が沈みますと、マンガ家として禄をはむのもこれがかつて以上に難しい。雑誌数は増え、ある程度連載がたまると単行本にはなりますから、デビューの機会はある。問題はその後」
懐から巻物を二巻取り出して半蔵に示す。
「このカメントツなる新人作家、半蔵はどう見る」
「は。もともと、ネット上でマンガを発表し、1000万PVとたいそう話題になったかぶき者。ある会社の社員寮に現れる“オレンジのお姉さん”と呼ばれる霊を扱った作品など、Twitterでその都度読んでおりましたが、小学館から単行本デビューするにいたるとは予想もしませなんだ」
「この丸いのは本人か」
「御意。写真が必要な折はフルフェイスの仮面を被って現れるので、仮面で突撃、ということからカメントツと名乗り」
聞きながら座敷に上がる。上座にどすりと座り、脇息に肘を乗せる。
「ほう、それでカメントツ」
オモコロなるマンガサイトの要望に応じて催眠セラピー、自己啓発セミナー、腸内洗浄、断食道場などかなりきわどいルポマンガに手を染め、その人気連載をまとめたものが『ルポ漫画地獄』、さらにそれが評価され、ゲッサンに掲載されたマンガ家インタビュー集が『漫画ならず道』」
「あだち充、青山剛昌、西原理恵子など、なかなか名城に凸り、かぶいておるではないか」
「そのあたりのつなぎはさすが小学館。またカメントツ自身、へりくだりつつインハイ高めな質問を繰り出しており、いずれもハードコアな読み応え」
「うむ、絵柄にクセがあるので見まがうところもあろうが、まず、しっかり常識をわかったうえで描いておるの。今日び、なかなかできぬことぢゃ。親御さんの躾が目に見えるようぢゃの」
「躾、でございますか」
「うむ、マナーであるとか、そういうことではなく、大切なものを大切に扱う、その姿勢とでもいおうか」
「その直球なストレートに、上杉和也は最初から殺すつもりだった、『タッチ』のタイトルは“バトンタッチ”の“タッチ”との名回答が得られたわけで、これにはネットが沸き申した」
「うむ、わしも思わず脇息から転げ落ちたわい」
「作品を宣伝するためにマンガ家本人がネットにブログを書いたりtweetしたり、ということは従来もございましたが、カメントツはそもそもネット上で可能な限り手を伸ばした結果、マンガ家となり、小学館から単行本発行にいたった。これは今後のマンガ家の在り方の一つを示唆しているようにも思われます」
「ふむ。領地の地図が変わるかも知れぬの、地図が」
「しばし手の者を配し、様子をうかがいたく存じますが」
「許す」
揺れる行燈の火。半蔵の気配はすでにない。

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