『怪談狩り 市朗百物語』 中山市朗 / 角川ホラー文庫
『新耳袋 現代百物語』を編んだ著者の片翼、中山市朗による実話怪談集。最近、続編にあたる『怪談狩り 市朗百物語 赤い顔』も文庫化された。
しかし、無骨な言い方をするなら長年のうちにネタが尽きたのか、それとも読み手がスレてしまったのか、はっきり言ってそう怖くはないし、全体にどこかで見た、聞いたような話が多い。
……とかいった評価はさておき、1冊目の『怪談狩り』以来、気になっていたことを書いておきたい。
『怪談狩り』の文庫版(添付画像)の帯には
“わからない”事は恐い。
“わかろうとする”から恐い。
ただ“感じる”を受け入れればいい。
えっ!? やっぱり怖い?
という小堺一機のコメントが寄せられている。
少しひっかかりを感じながら本文を読んで、しばらくしてその理由に思い至った。
こうした実話怪談については、おおむね、その謎は“わからない”ものとされる。ある家で怪しい現象が相次ぎ、実はその家でかつて首を吊った者があった、という因果関係が明らかになったとしても、怪異そのものが説明できるわけではない。
だが、現象そのものが現在の科学で説明つかなくとも、一つひとつの経緯の中での辻褄はあっているべきではないだろうか。
たとえば、月の峠道をバイクで走っていて、路上に映った影を見たら、荷台の上に上半身だけの人のようなものがいる。驚いてブレーキをかけた途端、前後のタイヤが縦に真っ二つに裂け、バイクは横転。ただ運転者は大きな怪我もなく無事だった、という短い話(第七十四話「峠道」)。
一読、うすら寒い怖さがある。……が、少し考えると、微妙に折り合いがつかない。
バイクの荷台に現れた怪異(重さや影だけで、姿が明らかでないのが怖さをいや増している)は、前後のタイヤを裂くほどの物理的な遂行能力を持っているのである。それなのに運転者はたいした怪我をしていない。まるで狐か狸のいたずらだ。悪意のおさまりが悪い。
やはり峠道の話。あるトンネルの前で若い女をバイクに乗せると、やがて忽然と姿を消すという噂がある。語り手が似たシチュエーションになり、女性をバイクに乗せ、「これでは噂通りだ」と考えると、耳元で「そうでしょ」と声がして、腰にまわした腕の感触だけ残して女性は消える(第九十七話「噂の通り」)。
この若い女性が霊的な存在であるとして、それなら人の心は読めるのか。生きた人間とコミュニケーションを交わすためには最低でも網膜や内耳や声帯といった器官が必要だが、そのあたりの仕組みはどうなっているのか。
逆に、妙な説得力に充ちた話もある。
踏切り事故で死んだ息子の首を抱え、悲嘆のあまり田んぼにしゃがみ込む母親。ところが、のちに、この母親本人が別の町に引越して生活しているのに、その場所では頻繁にしゃがんだ女の姿が見られるようになる。その姿は事故を知らない者にまで見られたという(第九十三話「ヒロシ君」)。
姿や音で存在を主張し、峠道やホテルの部屋に現れる心霊現象。しかし、死後の霊が現れ、生者とコミュニケーションを取るという状況は説明が難しい。そこで、霊現象は生者が起こす、と考えてみよう。断腸の思い、無残な最期を迎えた者が、その痛みを強く抱えたとき、その念がその場所(家、部屋など)やもの(井戸や人形など)に転照され、のちのちまで残り、その念の波に敏感な者が音や姿を感じ見るとしたら。
亡くした息子の首を拾う母親の痛み(念)がその場所に焼き付けられる、それがのちのちにいたるまでスクリーンに姿が映るように何度も見受けられた、と考えるのは、死後の霊が現れて生者とあれこれ会話すると考えるよりよほどありそうな気がするのだが、どうだろう。
このように考えると、実話怪談本の類にまとめられた異音や怪しい姿のいくつかの説明はそれなりにつくような気がする。もちろん、それで何の説明をしたことにもならないのだが。
ちなみに、『怪談狩り』『怪談狩り 赤い顔』とも、どこかの本のように「いにしえよりの作法に則り、九十九話にて完」などとヌルいことは言わず、思い切りよく百話語り切りである。一気読みして変化妖異に出張られようが、知ったことではない。
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