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2017/02/03

『片恋・ファウスト』 ツルゲーネフ、米川正夫 訳 / 新潮文庫

Photoバーナード嬢曰く。』の第2巻には、町田さわ子が「教養高めようと思って」手あたり次第に借りた古典のラインナップが
  『老人と海』
  『二十日鼠と人間』
  『ジーキル博士とハイド氏』
  『ポー詩集』
  ツルゲーネフの『はつ恋』
  ワイルドの『サロメ』その他
で、これが実はいずれも文庫の薄さで選んだものだった、というネタがあった(さらにその中でも屈指の薄さを誇る『春琴抄』がとんでもなく読みづらくて泣く、というオチ付き)。

しかし、ムズカシそうな古典はできれば薄いほうが──という生物の習性には思い当たるフシもあって決して笑えない。
横目で自分の未読の棚を見てみると、ありました、いつどこで入手したか覚えてないツルゲーネフ『片恋・ファウスト』。短篇2作で170ページ、薄いのでとりあえず買っとこう薄いのでそのうち読むだろう気配がいかにもたこにも。
おまけに昭和二十七年發行、昭和三十八年十三刷、パラフィン紙カバーの新潮文庫という町田さわ子もびっくりのヴィンテージ品だ(ほんとにどこで買ったのだろう……?)。

収録された作品は「片恋」「ファウスト」ともツルゲーネフ本人の自伝的恋愛小説で、ざっくりいえばどちらも露西亜無産階級インテリゲンチャの語り手にうっかりほだされた女がへたれ男の優柔不断で不幸になる、という情けないお話だ。
それでもこの時代の文学作品におけるロシアの「風変わりな」女たちが手に負えないほど魅力的なのは、どうしたものだろう。
頬を染めて黙り込み、そっぽを向いていきなり部屋を飛び出し、戻ってきて思いのたけを叫ぶやまた走り去って熱を出して寝込む。ときにはそのままうわ言をつぶやいて死んでしまう。
それぞれシチュエーションや年齢は異なるが、「片恋」のアーシャ、「ファウスト」のヴェーラとも(付け加えるなら玉井徳太郎が挿絵を描いた『孤児ネルリ』なども)、そういった熟しきらない林檎のような抗いがたいエキセントリックな魅力に満ちあふれている。

彼女たちに比べればフランスの悲劇のヒロインなど、狂ったように見えてどこか最後までお化粧を忘れないところがあって苦手だ。

ところで「あとがき」によると、米川正夫は、二葉亭四迷の「片恋」は題名含め名訳だが、さすがに時代感覚のずれや江戸の戯作の影響下にあるように思われたため改訳した、とのこと。
それでも米川の時代からさらに65年を経て、今や耳慣れない言葉も少なくないようだ。

  あたし全く空をつかってるんじゃありませんの。

  僕はこうしたごったくさには経験がないものだから。

「空をつかう」「ごったくさ」……???

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