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2017/01/25

小学館版『少年少女世界の名作文学』の思い出

1_2少年少女のための文学全集があったころ』 でも取り上げられた小学館版『少年少女世界の名作文学』が刊行されたのは昭和39年から43年にかけてのことだった。月刊で、全50巻。
烏丸の場合、小学校2年から5年にかけてにあたる。毎月15日の発売日が楽しみで、学校から走って帰り、まだ届いてないと知るや玄関にへたりこむほどがっかりした記憶がある。

次の巻が出るまで何度も読み返す巻もあれば、なかなか読み終えられなくて次の15日が近づいて苦しんだものもあった(『クオレ』とか『次郎物語』とか)。

クリーム色に藍の天地の箱は今思い返してもなかなかモダンで、他社の子供向け全集の単色、布張りの装丁に比べてもかなりハイセンスな印象だった。

表紙カバーや各作品の章タイトル下にはその国の風物の写真やカットが配され、海外旅行など縁遠かった当時の小学生にとってはそれだけでも貴重な情報源だった。

また、各巻の表紙には世界の名画が貼られ、巻末の解説と併せて古今の芸術作品に触れる機会を提供してくれた。小学生の時分にルネサンスだの印象派だの、いっぱしの美術通ぶれたのはこの表紙によるところが大きい。
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内容はイギリス編(7巻)、アメリカ編(9巻)、フランス編(8巻)、ドイツ編(6巻)、ソビエト編(5巻)、日本編(5巻)などに分かれ、それがランダムに届く。
『小公子』『小公女』『家なき子』『ピーターパン』『トム・ソーヤーの冒険』『ガリバー旅行記』『オズの魔法使い』など子供向けに書かれた、もしくは子供向け全集の定番作品はもちろん、ギリシア神話や北欧神話、古事記などの神話(『ワイナモイネン物語』『ニーベルンゲンの歌』『ルバイヤート』『シャクンタラー』等まで!)、『ファウスト』『オリバー・ツイスト』『白鯨』『巌窟王』『狭き門』『車輪の下』『父と子』『即興詩人』『三国志』『坊っちゃん』など世界の名作の抄訳、モーパッサンやリラダン、メリメ、チェーホフ、マンスフィールドらの短編、さらにガボリオ、ルルー、ルブラン、ドイルらの探偵小説、ヴェルヌやH・G・ウェルズのSFまでそろっていた。

もちろん、大半は子供向けにわかりやすく翻案されたものである。
子供に本を与えるに、「完訳」を旨とすべきか「抄訳」を容認するか、いちがいにどちらが正しいかはわからない。しかし、小学生にいきなりディケンズやユゴーの「完訳」を読ませるのが困難である以上、ある程度の翻案はやむを得ないのではないか。

実際、『少年少女世界の名作文学』の抄訳で出会い、のちに「完訳」に手を広げた作家は少なくない。
たとえばドストエフスキーの『罪と罰』や『孤児ネルリ』(『虐げられた人々』の抄訳)には小学生時分ながら何か重いものに胸打たれ、のちに同じ作家の全作品を読むにいたった。後から思い返しても、抄訳で読んだこの2作への理解はそう間違っていなかったと思う。

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ランボーと出会ったのもこの全集である。ほかの詩人と合わせ、ほんの数篇の掲載だったが、なにか夏の早朝のように突き抜けたものを感じた。
エセーニンもこの全集のソビエト編で知った。今でも一部そらんじることができるほどだ。

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──などなど、もし小学生時代にこの全集に出会ってなかったなら、などと、考えるだに怖ろしい。この全集のない世界に、自分はいない。

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