『大江戸怪談 どたんばたん(土壇場譚)』 平山夢明 / 講談社文庫
繰り返すが、文芸における、言文一致運動だの写実主義だの白樺派だのプロレタリア文学だの新感覚派だのといったいわゆる“潮流”が絶えて久しい中、平山夢明らが「実話怪談」という様式を形作り、若手を育成し、この出版不況下に書店の棚を埋め続けている功績はもう少し高く評価されてよい。
その平山夢明が杉浦日向子の名作『百物語』に啓発されて江戸を舞台にした怪談を書いた。
ただ、さしもの親分も慣れない時代物に多少気後れしたのか、最初の数編では
〈夕まずめ〉というのは暮れ時のことで魚の食いが活発になる時分のことであり
とか
〈追い回し〉というのは所謂、掃除、洗濯、道具の手入れ、雑用一般なんでもこなす内弟子のことで
など、当時の物言いを無理に使おうとしてのぎこちなさが目立った。そのうち怪談が怪談たるためにそんなことはどうでもいいと気がついたのだろう、語り口も妖異の現れもなめらかに、後半はずいぶんと読みやすくなった。
江戸時代の話だからもちろん取材に基づいた「実話怪談」ではない。だが、当時の習俗を素材としつつ、抹香臭さのない、現代に通じる切れのいい恐怖を描くあたりは流石。続編を期待したい。
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