『ネオ寄生獣』 岩明均、萩尾望都 ほか / 講談社 アフタヌーンKC
岩明均『寄生獣』(1988~1995年)に捧ぐ、トリビュート作品集。
参加者は萩尾望都、太田モアレ、竹谷隆之、韮沢靖、真島ヒロ、PEACH-PIT、熊倉隆敏、皆川亮二、植芝理一、遠藤浩輝、瀧波ユカリ、平本アキラ。
(以下、個々の内容に触れるので、未読の方はご注意。)
特筆すべきは巻頭、萩尾望都の「由良の門を」。
『寄生獣』後の世界を描いて秀逸。よもや、の主人公といい、能楽「海人」の「玉の段」を素地にしたストーリーといい、もはや別次元の水準。
『寄生獣』という作品の計り知れない力は、よくできたホラー、サスペンス、SFマンガとして読み手を楽しませる一方、人間に寄生し人間を捕食する寄生獣が自らの存在意義を問い(「我々はか弱い」)、また寄生された人間がどこまで人間であるかを問われ(「きみ…… 泉 新一君 ……だよね?」)、つまりは読み手に「人間とは何か」と繰り返し問いかけてくることによる。「由良の門を」はその観点で正統な『寄生獣』の継承の一つだ。
惜しむらくは登場人物の一人が原作の浦上とそっくりな行動原理によっているにもかかわらず、とくにその点について深掘りせず、たまたまそういう人物が現れたようにしか描かれていない。主人公が浦上のコピーを圧倒することの意義は本来極めて大きかったはずなのだ。
太田モアレ「今夜もEat it」、熊倉隆敏「変わりもの」。
後藤の死後、寄生獣たちが市井に紛れた後、それぞれに「家庭」を築く姿を描く。とぼけた雰囲気の中に一種異様な緊張感があり、それぞれ素晴らしい。さすがアフタヌーン。
皆川亮二「PERFECT SOLDIER」、遠藤浩輝「EDIBLE」。
いかにもこの2人が描きそうなミリタリーアクション。いずれも完成度は高いが、『寄生獣』の、無造作に読み手を裏切るあの素っ頓狂な意外性に欠けるのは残念。
真島ヒロ「ルーシィとミギー」、瀧波ユカリ「寄生!! 江古田ちゃん」、平本アキラ「アゴなしゲンとオレは寄生獣」。
自身のキャラクターを遣いゴマにし、さらっとギャグに仕立てる。それぞれ寄生のさせ方にワザがあり、プロの仕事を感じさせる(ただし、教条的『寄生獣』ファンには抵抗があるかもしれない)。
各作の後の『寄生獣』の魅力を答えるコメントで光ったのは、描き込みのすさまじい「ミギーの旅」を寄稿した植芝理一、
リアリティとデフォルメ、恐怖とその中に含まれる少しのユーモアのバランスが絶妙なところでしょう。
の一節。
この「少しのユーモア」が、あちらこちら背中の傷のようにひきつった『寄生獣』を救い、再読をうながすのだ。
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