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2016/08/17

せっかく神さまが、先生を 『拝み屋怪談 禁忌を書く』 郷内心瞳 / 角川ホラー文庫

Photo個人や場所を特定されないように書くためか、実話怪談はおおむねオチの鮮明な掌編として書かれることが多い(長編での成功例となると小野不由美『残穢』くらいだろうか)。

結果、実話怪談はいずれも似たような黒い表紙の掌編集となり、新味を謳いづらい。怪談作家はそれぞれ、百物語の体裁をとる、ローカル色を出す、語り口やキャラクターに異風を求めるなど工夫をこらすが、差別化という点ではさほど効果が上がっていない。

そんな従来の実話怪談に対し、郷内新瞳はプロの拝み屋として書くことによって、怪異をこうむった相談者が死にいたったり、著者の心身が痛手をこうむったりする場合もあり得る──つまり、制限のない怪異の暴威を描くことを可能にしている。
と、ここまでは前回『拝み屋郷内 怪談始末』『拝み屋郷内 花嫁の家』の紹介の折にも書いた。

新刊の『拝み屋怪談 禁忌を書く』は、その『拝み屋郷内 花嫁の家』を書き上げた時期、著者の身辺に発現し、著者を苦しめた怪異をいくつかの柱とし、著者が聞き集めた実話怪談を枝葉状に並べたような形になっている。
その怪異のいくつかは執拗で、暴力的だ。著者の前に立ちふさがる凶暴な敵なのである。

思い起こせば現在の実話怪談ブームの火付け役の一端は、90年代後半の『新耳袋 現代百物語』(木原浩勝・中山市朗)のヒットだった。これは青山墓地の幽霊タクシーに代表されるような、因果にこだわった従来の幽霊談に対し、日常に現れた説明のつかない怪を語って読み手を不安に陥れるというものだった(夜の坂道を前回りしながら降りていく背広の男や、一軒家の地下に設えられた出入り口のない四角い部屋などが思い起こされる)。

郷内怪談はここにいたって方向をさらに回転させ、(体を張って)自らに敵対する嗜虐的な怪異とその因果を描く。
幽霊、心霊モノより、祟り神、ないし神を騙るなにかヨコシマなものを扱うときに筆が踊る。それも郷内怪談の特徴の一つだろう。

角川ホラー文庫の前作『拝み屋怪談 逆さ稲荷』や本作によると、『花嫁の家』以外にも猛り、嗤う怪異のストックはいくつか残っているもようだ。新作を楽しみに待ちたい。よしんば著者が押入れを覗くたびに女の首ががさがさと音を立てて待っていようとも(読者とは祟り神のようなものなのである)。

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