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2016年7月の5件の記事

2016/07/30

『最後のレストラン』(現在8巻まで) 藤栄道彦 / 新潮社 BUNCH COMICS

Photo【さて 不思議じゃのう…】

何度も書いてきたことだが、なんらかの難題が提示され、それを作品のテーマにそって解決していく──というタイプの一話読み切りマンガはもう少し高く評価されてよいように思う(『代打屋トーゴー』や『スーパードクターK』など)。

藤栄道彦の作品も、『コンシェルジュ』(シリーズ通巻31巻)、そして現在連載中の『最後のレストラン』など、そのスタイルで貫き通されている。

『最後のレストラン』は、偏屈で厭世的なシェフの商うフレンチ・レストラン「ヘブンズドア」に毎回死を直前にした歴史上の偉人がタイムスリップして現れ、彼らが満足する人生最後の一皿を提供しなければならない、という設定。
軽めの絵柄、シェフのネガティブな言動などによってちょっと見ギャグ、パロディの色合いが強いが、なにしろ死を目前にした最後の一皿である。何冊か読み続けるうちに読み手の海馬に澱のようなものが溜まっていく、ような気がしないでもない。

「ヘブンズドア」に登場するゲストは、織田信長、マリー・アントワネット、坂本龍馬、ジャンヌ・ダルク、ヒトラー、安徳天皇、澤村榮治、ラスプーチン、戦艦大和乗員一同などなど。
登場人物によって、読み手の好みが大きくブレそうな作品ではあるが、その人物が間もなく死ぬ認識のあるもの、ないもの、歴史上語られているとおりの人物として描かれたもの、逆のもの、現代にそのまま残ってしまうもの、過去に戻るもの、それに対するシェフの姑息な(?)一皿ともどもバリエーション豊かで、なかなか飽きさせない。
飽きることはないが、偉人たちのそれぞれ戻った先での運命を思えば、料理はどこか苦い。

2016/07/13

『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』 巻来功士 / イースト・プレス

Photo1980年代、『ドラゴンボール』『北斗の拳』『聖闘士星矢』『ブラック・エンジェルズ』『キン肉マン』『シティーハンター』『キャプテン翼』『ジョジョの奇妙な冒険』などの連載マンガで少年ジャンプが最も熱かったころ、エログロオカルトバイオレンスアクション『ゴッドサイダー』でマニアックな人気を博した巻来功士の自伝的コミック。

『ゴッドサイダー』は少年ジャンプ伝統の“友情・努力・勝利”の構図に表向きはのっとりながら、憑かれたような過剰さに自ら燃え尽きて消えていった。『連載終了!』にはその前後の経緯が語られていて興味深い。

ただし、ここで示されるのは、作家本人と、せいぜい担当編集者とのやり取りであり、編集部内での評価等がすべて明らかになるわけではない。むしろこの『連載終了!』を読んで痛々しく感じるのは、少なくとも当時、マンガ家という職業は編集部に対して常にその時点のただ一人の編集担当者を通してしか雑誌そのもの(編集部)や読者とのつながりを持ち得なかったということだ。

「月刊フラワーズ」2016年7月号には、『ポーの一族』40年ぶりの新作に添えて萩尾望都と山岸凉子の対談が掲載されているが、その中で山岸は掲載当時の『ポーの一族』は読まなかったと述懐している。
『連載終了!』を見ても、同じ少年ジャンプに連載を持ちながらマンガ家どうしの付き合いは驚くほど薄い(その例外がマンガ家自身が他の作家のもとを訪れるアシスタント業だといえる)。

後半、編集部の求めるものと自身の求めるものの乖離を明確に意識した巻来は、走りながら叫ぶ。

  オレはもうただ強さを競うだけの単純な漫画なんて描かない!!
  戦って死んでもそのたびに友情や愛の力で蘇る漫画なんて描かない!!

その決意の結果生まれたのが、青年マンガの傑作『ミキストリ -太陽の死神-』だった。──とはいえ、巻来作品のファンから見れば『ゴッドサイダー』も『ミキストリ』も妄想の暴走度合いにおいてたいした違いはない。

だからこそ、この作者の作品は他のなにものにも代えがたいのだが。

おまけ1
巻来作品の中で、個人的には(連載打ち切りとなった)『メタルK』が一番好もしい。戦いがだらだらと拡大再生産される手前で終わる壮絶な美しさ。

おまけ2
巻末対談の堀江信彦氏(少年ジャンプ5代目編集長)のコメントは極めて有用。縦糸と横糸、どっちの才能、マンガ家は絵コンテが切れる、など。 

2016/07/09

『ベイビーステップ』(40巻) 勝木 光 / 講談社コミックス

40【でも君は普通のことしてたら ダメなんじゃないか?】

全日本テニス選手権で高校生ながら準決勝に進んだ栄一郎だが、ベテランの門馬歩夢相手に1ゲームとるのがやっとという完敗を喫す。それでもいくつか企業の協力も得て、プロへの道を歩み始める。まず下部大会のフューチャーズに挑戦……というところまでが前巻。

しかし、テニスを始めて3年、身体的に優位に立つわけでもない栄一郎がプロの世界ですぐ成果を残せるはずはなく、オーストラリアの大会では強風や言葉の壁にとまどって予選1回戦負け、中国の大会では本戦に進むも食あたりで棄権、国内でも思うように勝てず、プレイにも迷いが出、というのが最新の40巻。
リアルといえばリアルだが、夢を売る少年マンガがプロになった困惑だけで1巻埋めてよいのか。こまごまが面白いからいいけど。

ちなみに40巻の終わりの時点で栄一郎は世界ランキング1413位。
先週、ウィンブルドンではランキング700番代のテニスコーチ、マーカス・ウィリスが(彼女の勧めに一念発起して)予選を勝ち抜き、同3位のロジャー・フェデラーと対戦して大きな話題となった。ただ、プレイを見る限り、ウィリスは左からの力強いサーブとスライス、ボレーを巧みに操る実力派で、怪我などなくコンスタントに大会に出ていれば実際のランキングはもっとずっと上だったに違いない。実際、フェデラー相手に大敗したものの、ラブゲームでサービスキープする場面など、それなりに見応えのある「試合」にはなっていた。

ウィリスに比べれば技術、体力、戦略、集中力の持続など、あらゆる面でトップに及ばない栄一郎がプロの世界で活躍するには相当のブレイクスルーが必要だろう。とはいえこつこつ練習をウリにする作品だけに、いきなりスーパーエーちゃん化してトッププロに勝つとか夢のような展開に持ち込むわけにもいかず、今後の展開が心配ではある。2年くらい、飛ばすか?

2016/07/07

〔短評〕 『爪と目』 藤野可織 / 新潮文庫

Photoなるほど、にたがわず酷い。
これが芥川賞に推されたというのは、なにか隠された深い意味でもあったのだろうか。

とくに理由もなく母親を死に追いやった幼児の<わたし>が、家庭に入ってきた父親の不倫相手の<あなた>を主語として綴る文体──は、一見斬新なようで、<わたし>がなぜ自身が居合わせなかった場のいろいろなこと(<あなた>の意識含む)を知り得たのか説明がつかず、つまり「神の視点」を適当に置き換えたに過ぎない。
書かれた状況が起こっている現在と、このテキストが書かれた未来(<わたし>は大人になっているらしい)の時制についても、思わせぶりではあるが、謎や余韻とはならず、単に説明が放棄されたようにしか見えない。

ストーリーは(心霊モノではなく壊れた人間を描くほうの)ホラーにあたるといえばあたるが、致命的なのは読み手の不安や恐怖が<わたし>と<あなた>のどちらに集約するのかまったく気遣われていないことだ。
作者は目や爪を小道具に何かを醸し出そうとしたのかもしれないが、結局<わたし>も<あなた>も(ついでにいえば父親も<あなた>の浮気相手の古本屋も)無神経で無頓着で無責任なだけで、それがすれ違ったり傷つけ合ったりしても人間や社会や虚無を描いたことにはならない。

ただ、作品としては中編というにも短く、読むのに時間を取られなかったため、☆1つ。

2016/07/05

〔短評〕 『明日訪ねてくるがいい』 『這いよれ!ニャル子さん』『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』

最近の読書から。

Photo『明日訪ねてくるがいい』 マーガレット・ミラー、青木久恵 訳 / ハヤカワポケットミステリ

神保町の古本屋で「頁上部イタミ大」ということで思いがけず廉価に手に入れることができた(その分、予定外の本のあれこれに手を出してしまったのでこのターン惨敗)。
のちの『ミランダ殺し』や『マーメイド』にも登場する弁護士トム・アラゴンが探偵役。こじゃれた会話も散見するが、そんなユーモアより捜査先のメキシコのすさんだ印象が圧倒的で、汗ばんだ肌に細かな焦燥感がザラザラまとわりつくよう。
最後に明らかになる犯人──というか事件の真相を、読み手は最初の1ページめから知っていたはず──そんなミラーならではの読後感が苦い。

『這いよれ!ニャル子さん』(全12巻) 逢空万太 / SBクリエイティブ GA文庫

油断していたら2年も前に完結していた。慌てて未読だった10巻、12巻を入手した次第(11巻は読んでいた。在庫管理上いかがなものか。その通りですすみませんすみません)。
宇宙からやってきた凶暴なヒロインに地球人の若者がつきまとわれ、そこに新たな登場人物(宇宙人)が──という「ラブコメ」構図は懐かしの『うる星やつら』そのものだが、なにしろ本作の元ネタはクトゥルー神話、「ラブコメ」は「ラブクラフトコメディ」の略で、ヒロインのニャル子はニャルラトホテプ、その幼なじみのクー子はクトゥグアというのだからおやまあ恐ろしい。全編これ細かなパロディで埋め尽くされており、カラフルなネタのソフトタイルを敷き詰めたショッピングモールを友だちとスキップで歩くような楽しさに満ちている。
個人的にはイス香の登場するお話と、彼女の名状しがたい日本語のような話し方が好きですョ? 遠い昔の夏休みの解けない謎の趣き。

Photo_2『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』 清水 潔 / 新潮文庫

以前取り上げた『マスコミ報道の犯罪』の例もあり、冤罪にかかる主張については一概に白を白、黒を黒、と言えない自分がいる。
著者、清水潔氏は、桶川ストーカー殺人事件や本書の主題となった北関東連続幼女誘拐殺人事件において警察、検察の隠蔽を粘り強く暴いた、という点では高く評価したい。ただ、だからといって書かれたことすべてを信用していいのかどうかは正直言ってよくわからない(少なくともルパンと称される人物や飯塚事件についての記述はどちらかといえば強引さや上滑り感を覚えざるを得ない)。
警察、検察がまったく信用できない、などとは言わない。だが、組織というものがえてして真実の究明より自らを守るよう機能しがちなのもまた事実だ。その動向を常に洗い直す働きを受け持たないなら、大手マスコミはただ権力の広報代行業者に過ぎなくなる。本書は記載内容の正確さはさておき、そういった構造への警鐘とみなすべきだろう。

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