円形管を走り抜けろ 『下水道映画を探検する』 忠田友幸 / 星海社新書
異文化の出会いがもたらした、一種の奇書。
著者は長年名古屋市の下水道管理に携わってこられた方。スクリーンにときどき映る下水道が気になって映画のパンフレットやビデオテープ、DVD、ブルーレイなどを集めるうちに『月刊下水道』なる唯一の下水道専門誌に映画紹介記事を連載するようになり、それを新書にまとめたもの。
そもそも唯一の下水道専門誌という段ですでに十分怪しい。もしも下水道専門誌がいくつもあって、それぞれ発行部数や特集や付録を競っていたなら。考えるだけで眠れなくなってしまう。
取り上げられた映画が怖い。
なにしろ最初の章が「ネズミ」である。ネズミが群れをなして町を襲うパニックものに、疫病系も含まれる。次が「災害」。続いてワニや宇宙怪獣がうごめく「モンスター」。ようやく人間が主題になったと思いきや追われる者の「逃走路」、銀行金庫を狙う「強奪」、続いて「隠れ家」、「脱獄」、最後に「歴史」。
確かに映画に下水道が出てくるなら、その多くはヌタヌタしたモンスターの育つ暗闇か追われる者が逃げ惑う迷路に違いない。
多くはB級サスペンス映画だが、ときにオーソン・ウェルズ『第三の男』やアンジェイ・ワイダの『地下水道』、あるいは無声映画の『第七天国』のごとき本格が唐突に登場するのであなどれない。その映画を取り上げ、あらすじや背景を語る著者の口調は(名文とは言い難いものの)穏やかかつ冷静で、しかし映像中の下水道を説明しだすやいなや専門用語を連発して俄然熱気を帯びる。映像の下水道がセットか本物かに目をこらし、下水管への認識不足に憤る。
映し出される管きょや施設は変化に富んでおり、形や構造もさまざまである。写真上はハンチ(天井部分隅を斜めにした構造)のついた矩形きょっぽい。欧米の作品によく登場する鉄柵がはまった円形管。まるきり地下通路のような縦長の矩形きょ。そして、四方から水が流れ込む大きな接続室。
これで梶芽衣子主演『女囚さそり けもの部屋』の紹介なのだからたまらない。
取り上げられた映画は全部で59作。
B級、A級とりまぜて、それぞれの映画を見たい気持ちに揺れる。読み進むうち、作者がまだ知らない下水道映画を発見したいという黒いファイトも湧く。確か特撮怪人映画に下水道を逃げるシーンがあった……それは東宝の『美女と液体人間』。ちゃんと紹介されている。
『うる星やつら』にはなかったろうか。『コブラ』のマンガ原作には下水道を逃げる場面があった気がするが、映画版ではないか。
好感、だけですまされない。いろいろ後を引く1冊である。
※で、実際に後を引いた結果がこちら。
« 『所得倍増伝説 疾風の勇人(1)』 大和田秀樹 / 講談社 モーニングKC | トップページ | 忠田氏に続け! 「下水道マンガを探検する」 »
「音楽・CD・コンサート・映画・演劇」カテゴリの記事
- 『指先から旅をする』 藤田真央 / 文藝春秋(2024.02.22)
- 『ウィトゲンシュタイン家の人びと ──闘う家族』 アレグザンダー・ウォー、塩原通緒 訳 / 中公文庫(2021.06.20)
- ピアノ消音システム KORG KHP-2500S を取り付ける(2021.03.02)
- 不要不急 『音楽の危機 《第九》が歌えなくなった日』 岡田暁生 / 中公新書(2021.01.25)
- 『ヤクザときどきピアノ』 鈴木智彦 / CCCメディアハウス(2020.10.21)
« 『所得倍増伝説 疾風の勇人(1)』 大和田秀樹 / 講談社 モーニングKC | トップページ | 忠田氏に続け! 「下水道マンガを探検する」 »


コメント