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2016年6月の5件の記事

2016/06/26

立ち場なし 『河鍋暁斎』 木下直之 解説 / 新潮日本美術文庫 24

Photoちょっとぐだぐだした内容になりそうだが、いつものことと諦めてお付き合い願いたい。

もうすぐ盛夏、夏といえば全生庵の幽霊画。ということで幽霊画、またテレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」では谷文晁らと並んで偽物の持ち込みの多いことで知られる河鍋暁斎の画集を古本屋の美術コーナーで見かけたのでほかの本に重ねて買ってきた。
(古本屋の美術コーナーをうろつくにいたったのにはそれなりのいきさつがあったのだが、くどいので省略。)

平成8年発行の画集だが古本としては美本である。もともと新潮美術文庫は美術印刷に凝る大日本印刷の技術力がよく現れたシリーズで、小ぶりながらクリアかつ濃密なカラー印刷が好もしい。また、32点と点数こそ少ないものの、迫力ある仏画、風俗画、妖怪・幽霊画、当節人気の若冲なにするものぞの花鳥図、はては裏地に血なまぐさい処刑場を描いた誰得な羽織など、暁斎の八面六臂な発想、筆遣いがすさまじい。

が、今回のテーマはそこではない。

本書は兵庫県立近代美術館学芸員(当時。現東京大学教授)の木下直之氏による作品解説、河鍋暁斎の人と作品(一揮千紙快筆の画家)、そして年表(河鍋暁斎とその時代)と、ほとんど木下氏一人の手によって編纂、執筆されているのだが、そのご本人が

  画集はないよりはましだから、まるで役に立たないとは思わないが、

  色彩の忠実な再現などほとんど不可能だし

  画集の写真図版がいかにゆがんだ情報をもたらすものか

と、つまりはこの画集そのものの存在意義を(部分的であれ)頭ごなしに否定しているのである。

もちろんそれは、紙の画集は実際の作品と材質も肌合いも大きさもすべて違っていること、またとくに河鍋暁斎の時代には作品を描くという行為が多彩なパフォーマンスの一つであり、壁に額縁付きで展示する作品至上主義な現在とは違うスタンスのもとに描かれたものであったこと……などによるものであり、かつ本書を手にした読者が暁斎の実際の作品を見るきっかけとしたい、といったようなことは丁寧に説明されてはいる。いるのだが、それにしたって執筆者本人に「画集をあまり信用しないでいただきたい」とまでダメ出しされた本画集、自分などもう、とくさっているのをとりあえず新橋ガード下の赤ちょうちんに誘い出したはいいが、いったいどう慰めればよいのか。

2016/06/22

ホンット外面いいよね 『そこをなんとか』(現在11巻まで) 麻生みこと / 白泉社 花とゆめCOMICS スペシャル

Photoとくに事件とは関係ないダジャレや耳を触る癖やプロレスネタや料理ネタや不自然なドタバタを削ってしまうと果たしてどれほどのものが残るのだろう──と思われた某ドラマに比べ、段違いに読み応えのある弁護士ドラマである。

単行本の最初の数冊は、新司法試験で弁護士数が激増したため就職に苦戦する(そのくせ成り上がり志向の強い)主人公改世楽子や、優秀ながら大手事務所を不祥事で退職した先輩弁護士東海林弘明のエキセントリックさばかり目立ち、ちょっと読むのがつらい面があった。

11巻まで通して読み返し、感じることは、キャラクター紹介が落ち着くとともに脇役たちの立ち位置含め、全体が安定してきたこと、そして、マンガというメディアはこんなにも軽々と「大人の事情」を描けるようになったのだな、ということだ。

相続、親権、結婚詐欺、少年犯罪、自己破産、民事再生法、不当解雇、モラハラ……。
この作品で取り上げられたもめごとの多くは、いずれも主人公の正義感や法令知識、あるいは些細な思い付きで方が付くほど簡単なものではない。事件の裏には軽重問わず大人の事情があり、弁護士としてそこに気が回らなければ解決は難しく、一方それに目をつむる程度の如才なさも兼ね備えていなければならない。

難点をいえば大人を大人として描く以上、楽子たちも清廉潔白なマンガのキャラクターではおさまらないことで、その分ピュアにのめり込む読み方はできなかった。
作品としてこれほど評価しつつ、楽子や東海林にまったくファン意識の沸かない自分が不思議なほどだ。

2016/06/14

忠田氏に続け! 「下水道マンガを探検する」

というわけで、忠田友幸氏の『下水道映画を探検する』にならい、マンガの中の下水道シーンを探してみた。
以下は今日一日の書庫漁りの成果なのだが、まずまずといったところか。

まず寺沢武一『コブラ』。
予想どおり、手元にあるジャンプ・コミックスデラックス版の1巻、「不死身の男」にあっさり見つかった。いかにもコブラらしい場面だけに、探せばほかのシリーズやアニメにも見つかるのではないか。
なお、この次のページには、水路が3方向から1つに集まるような仕組みもあり、下水道の造りとして妥当なのか忠田氏に伺いたいところである。
(宇宙のどこかの星の下水道として妥当かどうか、判断できるとしての話だが。)

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たかもちげん『代打屋トーゴー』第29話「アナコンダ」(モーニングKC 3巻)より。
主人公の「代打屋トーゴー」は、昼は市の土木課に勤める公務員。しかし、8時間のうち1時間しか働かない「パァピン」と呼ばれるダメ課員なので、代打稼業に本業の知識が活用される例は珍しい。
なお、古尾谷雅人主演のオリジナルビデオ作品もあるらしいのだが未見。したがってそちらにこの下水道シーンがあるかどうかも不明。
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伊藤潤二『うずまき』第12話「台風1号」(スピリッツ怪奇コミックス)より。
おそらく『コブラ』のようなサスペンスマンガ、アクションマンガには下水道を逃亡するシーンが少なからず描かれてきたと思われるが、ホラーマンガではどうだろう。それも作者が伊藤潤二となると……この「台風1号」も、とびきりヘンな話ではある。
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ジョージ秋山『浮浪雲』二十四 迎の巻第二章「水音」(ビッグコミックス)より。
下水道マンガとしては逸品。江戸末期の水洗便所、下水の発案者として小山五郎次なる少年が登場する。
ただし、「小山五郎次」なる名前はGoogle検索しても出てこないので、ちょっとまゆつば。
実在の人物をけなげなアイデア少年として浮浪とからめたなら巧いし、実在しないなら話造りが巧い。ということにしておこう。
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惜しかったのはとり・みき『パシパエーの宴』(チクマ秀版社)収録の「宇宙麺」。
未消化のラーメン状の生物が日本中の麺に紛れて現れるという実にゲロい話だが、この生物が道端の側溝にずるずるとぷん──と這い入る場面がある。残念ながら這い入った先の下水道の内までは描かれていない。

2016/06/13

円形管を走り抜けろ 『下水道映画を探検する』 忠田友幸 / 星海社新書

Photo異文化の出会いがもたらした、一種の奇書。

著者は長年名古屋市の下水道管理に携わってこられた方。スクリーンにときどき映る下水道が気になって映画のパンフレットやビデオテープ、DVD、ブルーレイなどを集めるうちに『月刊下水道』なる唯一の下水道専門誌に映画紹介記事を連載するようになり、それを新書にまとめたもの。

そもそも唯一の下水道専門誌という段ですでに十分怪しい。もしも下水道専門誌がいくつもあって、それぞれ発行部数や特集や付録を競っていたなら。考えるだけで眠れなくなってしまう。

取り上げられた映画が怖い。
なにしろ最初の章が「ネズミ」である。ネズミが群れをなして町を襲うパニックものに、疫病系も含まれる。次が「災害」。続いてワニや宇宙怪獣がうごめく「モンスター」。ようやく人間が主題になったと思いきや追われる者の「逃走路」、銀行金庫を狙う「強奪」、続いて「隠れ家」、「脱獄」、最後に「歴史」。
確かに映画に下水道が出てくるなら、その多くはヌタヌタしたモンスターの育つ暗闇か追われる者が逃げ惑う迷路に違いない。

多くはB級サスペンス映画だが、ときにオーソン・ウェルズ『第三の男』やアンジェイ・ワイダの『地下水道』、あるいは無声映画の『第七天国』のごとき本格が唐突に登場するのであなどれない。その映画を取り上げ、あらすじや背景を語る著者の口調は(名文とは言い難いものの)穏やかかつ冷静で、しかし映像中の下水道を説明しだすやいなや専門用語を連発して俄然熱気を帯びる。映像の下水道がセットか本物かに目をこらし、下水管への認識不足に憤る。

映し出される管きょや施設は変化に富んでおり、形や構造もさまざまである。写真上はハンチ(天井部分隅を斜めにした構造)のついた矩形きょっぽい。欧米の作品によく登場する鉄柵がはまった円形管。まるきり地下通路のような縦長の矩形きょ。そして、四方から水が流れ込む大きな接続室。

これで梶芽衣子主演『女囚さそり けもの部屋』の紹介なのだからたまらない。

取り上げられた映画は全部で59作。
B級、A級とりまぜて、それぞれの映画を見たい気持ちに揺れる。読み進むうち、作者がまだ知らない下水道映画を発見したいという黒いファイトも湧く。確か特撮怪人映画に下水道を逃げるシーンがあった……それは東宝の『美女と液体人間』。ちゃんと紹介されている。
『うる星やつら』にはなかったろうか。『コブラ』のマンガ原作には下水道を逃げる場面があった気がするが、映画版ではないか。

好感、だけですまされない。いろいろ後を引く1冊である。

  ※で、実際に後を引いた結果がこちら

2016/06/07

『所得倍増伝説 疾風の勇人(1)』 大和田秀樹 / 講談社 モーニングKC

Photo_2【GHQが何の略か教えてやるッ!! 〝とっとと帰れ〟(Go Home Quickly)だバカヤロウ!!】

最近、週末に一番楽しみにしている連載マンガがこれ。

スポーツや妖怪や料理がマンガになるのだ、経済政策、外交が素材にならないわけがない。
さらに吉田茂や田中角栄でなく「所得倍増計画」「私はウソは申しません」の池田勇人を選んだ、その着眼がいい。

圧倒的な実務能力と闇市のガサ入れに自ら乗り込む剛胆さを併せ持つ「数字の鬼」で「税金の鬼」の大蔵次官池田勇人を前総理吉田茂が招く。佐藤栄作が、白洲次郎が、大平正芳が、田中角栄が集う。マッカーサーが、ドッジが、シャウプが立ちふさがる。ド、ド、ドドドドドォォォッ!!!!

もちろんマンガはマンガ。真に受けるのはほどほどに(作品内で若く描かれていても、当時池田勇人や佐藤栄作はすでにアラフィフだ)、政局がらみの熱い闘いに一喜一憂しつつ、片手でドッジ・ラインやシャウプ勧告について勉強するならそれもまた一興。
実際、ウィキペディアの池田勇人の項など、ヘタな時代小説よりよほど面白くて震える。

それにしても、ほんの5、60年前、学生たちが倒すべき「体制」側にいたはずのこれら政治家が、平成の今、幕末の志士の如く、日本の独立を目論む熱いイケメンとして描かれる……隔世の感のかんからかんのかあん。

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