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2016/05/14

したっけ 『僕だけがいない街』(全8巻) 三部けい / 角川コミックス・エース

Photoしばらくランドセルを背負った子供の話を読みたい気分になく、この作品も売れているのは知っていたが意識の外にあった。
ところが奨められて読んでみるとこれが凄い。なるほど人気が出るわけだ。

主人公藤沼悟は29歳の売れない漫画家。周囲に危険が兆すと時間が巻き戻ってしまう特殊能力がある(「再上映(リバイバル)」と表現されている)。ある日、「再上映」に伴って思い出した子供の頃の事件の再検討を始めたところ、母が刺殺され、親しい少女も殺されかけ、さらに悟自身がその容疑者とみなされて「再上映」で逃れるが……。

ループ系タイム・リーパー 対 狡猾な殺人鬼、という設定は必ずしも珍しいものではない。
ストーリーは小学生にまで戻った悟が何度も失敗しながら推理と工夫で事件を防ぐ、という形で繰り広げられる。会話の妙など魅力はあるが、そのあたりまではまあ予測の範疇だろう。
本作が他の作品の追随を許さないポイントは、6巻の冒頭、意外と早く真犯人の正体が明らかになった後、「僕だけがいない街」というタイトルの意味が明らかになる衝撃的な展開にある。これはまったく予想外だった。

Photo_2最後まで読み通してみると、作中の「心の中に空いた穴を埋めたい」という二重の意味を持つ言葉が、この展開ではじめてこの物語を仏教でいうところの「大乗」の域を求めるものだと理解される。それはたとえば6巻 #34の最後のページで、赤ん坊を抱えた雛月加代と再会した悟が「おめでとう加代」と無自覚に涙をポロポロ流す、そんなシーンにも現れる。彼はついに加代を「救う」ことに成功したのだ。
本作は単に超能力者が殺人鬼を追い詰めるサスペンスではなく、そういう高いレイアの成果なのである。

欲をいえば悟とケンヤの最後の対話は階段でなされるべきだった。──逆に言えばそれくらいしか気になるところがない。
少し軽い絵柄を甘く見てはいけない。これは巧緻にして多層的な大伽藍なのである。

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