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2016/04/10

もう幻に怯えなくていいんだ 『ピアノの森』(全26巻) 一色まこと / 講談社 モーニングKC

Photoショパンコンクールを描く展開のモーニング誌上での盛り上がり、そして最終巻が発刊された(2015年12月22日)こともすでに旧聞となったが、『調律師』『バイエルの謎』とピアノ関連の本が続いたこともあり、この機会にぜひとも取り上げておきたい。

マンガやアニメは、一見絵画と同じく二次元のメディアと思われがちだが、実は「時間の流れ」、とくに「音楽」と深くかかわっているということは折々に触れてきた。
アニメ『鉄腕アトム』第一話、天馬博士によってアトムが作られる場面、それはあたかもオーケストラの演奏のようだ。
紙のマンガにおいても、とくにここ十数年、演奏シーンの描写の進歩には目を見張るものがあり、それはたとえば二ノ宮知子『のだめカンタービレ』やさそうあきら『神童』等に顕著だ。

『ピアノの森』も、主人公カイが森のピアノや師となる阿字野壮介と出会いピアノの才能を発揮していく、という物語展開だけでなく、とくに後半、ショパンコンクールにおける若いピアニストたちの演奏シーンがいずれも強烈な魅力をかもし出している。

『のだめ』や『神童』、そして『ピアノの森』に共通するのは、物語展開中の重要な演奏シーンにおいて、主人公のピアニストは無心、無表情を貫き、その限りにおいて読み手はもちろん他の登場人物をしても「何を考えているのかわからない」レベル、言い換えれば「凄み」に至ることだ。
(やはりピアニストの成長を描く新川直司『四月は君の嘘』は人気は高いようだが、その意味で演奏シーンが弱い。ジャンルは異なるが羽海野チカ『3月のライオン』も対局シーンの棋士たちのモノローグが煩わしい。)

『ピアノの森』を通して、もう一つ気になるのは、本作のようなマンガ作品においては、いまだに情緒的、悪くいえば「お涙ちょうだい」設定、展開、そして大団円が許せる、許される、ということだ。

『調律師』の主人公は交通事故で妻とピアニストとしての腕を失った。これは『ピアノの森』の阿字野壮介そっくりな設定だが、現代小説においてこの設定は、剽窃であるかどうか以前に陳腐さが先に立って気恥ずかしい。読む方が照れてしまう。
それでは『ピアノの森』、あるいはマンガは、小説よりレベルあるいはステージが低いのか。必ずしもそうは思えない。「ジャンルそのものには貴賎はなく,そのジャンルの中に一流とそうでないものがある」という村松友視の懐かしい指摘を持ち出すまでもなく、『ピアノの森』を読んで得られる力は本物だ。ただ、それならマンガにおける一流とそうでないものの違いは何なのだろう。

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