盲点fff 『バイエルの謎 日本文化になったピアノ教則本』 安田 寛 / 新潮文庫
かつて子供たちが手にする初めてのピアノ教則本といえば「赤バイエル」「黄バイエル」だった……
と思っていたら、最近ではバイエルといっても山ほど版があり、昔言われたところの「赤」「黄」がどれにあたるのかよくわからない。
それどころか、1980年代の終わり頃から、バイエルは「本国のドイツでさえもはや忘れられた教則本」とバッシングされ、「私はバイエルは使いません」と見識ぶるピアノ教師が巷にあふれた。らしい。
著者の安田寛氏はそんな、誰もが知っているようで実は誰も知らない「バイエル」に着目し、その正体を追う。
それにしたって。
・バイエルって作曲家は実在したの?
(不在説、偽名説……)
・日本に持ち込んだのは誰?
・なぜあんな構成なの?
など、あれほどまで普及した教則本とその作者について、ほとんど誰も深く追及してこなかったと知って驚く。
そして、幾人かの音楽教育者が、原典をてんでに都合のよい「バイエル」に改変し、広めてきたという事実にさらに驚く。著作権切れてるからってそれはいいのか。えっ、全部作り話の伝記マンガならある? ……
つまるところ、音楽は音「楽」であって音「学」ではない。
安田氏のテキストにしても、その苦心は別として、学究の姿勢にはいろいろ疑問符が付く。行き当たりばったりに海外の図書館や楽譜の版元を訪ね、たまたま一次資料にあたればラッキー。ほとんど趣味人の自費出版物のノリだ(なぜ現地ロケまでしたNHKに問い合わせない?)。
とはいえ、フェルディナント・バイエルという作曲家個人の真実をたどる旅、そして「静かにした手」や百六の番号付き曲の意図など、教則本としての本当の姿が徐々に明らかになる過程は読んでいて実に楽しい。
子供のころバイエルにお世話になったという方はぜひ。いろいろ呆然とすること請け合い。
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