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2016/01/11

「あさが来た」原案 『小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯』 古川智映子 / 潮文庫

Photo【儲けなあきまへん。──人のやらん新しい商いを、そう思うただけでも心が躍りまっせ】

連続テレビ小説「あさが来た」の評判がよいのは耳にしていたが、時間の都合もあって見ていなかった。
ところが年末、帰省した郷里の布団の中でテレビの音を聞くともなしに聞いていると、それが「あさが来た」の総集編だった。なるほどめっぽう面白い。大阪の両替商が九州の炭鉱経営に参画し、ヒロインが女だてらに現場を制圧する場面など実に豪気だ。

このドラマが実在の人物広岡浅子をモデルにしたもので、彼女が嘉永から明治、大正にかけ、三井財閥、大同生命、ニチボウ、日本女子大などの設立にかかわった女性実業家だと知ってさらに興味をもち、原案となった潮文庫『小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯』を読んでみた。これまた胸躍る一冊である。

史実を列挙するさっぱりした地の文に人の懐に踏み入る関西弁がはさまる文章は、流麗とは言い難いが読み手に先を促し、ときどきウィキペディアで人名や時代背景を確認しながらあっという間に読み終えた。

実家に戻った浅子の「うちは加島屋で威張って暮らしてるいうのに」という言葉からも明らかなように、浅子はドラマと違って嫁いだ当初から男勝りの実務家として描かれている。一方、夫の信五郎の柔らかな物腰、信頼する浅子への忠義は気持ち悪いほどテレビドラマの玉木宏そのままだ(玉木が原案をよく勉強しているのだろう)。
史実には浅子の大きな病や信五郎の側室の扱いなど朝ドラにふさわしくないところもあり、明朗なドラマのファンには夢を壊すところもあるかもしれないが、明治維新後の大阪経済を支えた商人の執念の物語として強くお奨めしたい。

二つのことを考えた。

一つ、大河ドラマはなぜこの作品を選ばなかったのか、ということだ。
平成も四半世紀を過ぎて、さすがに今さら「天下」、「合戦」、「義」やら「尊皇攘夷」でもないだろう。歴史上の人物を描くなら、清盛でも家康でも龍馬でも、そろそろ彼らの「経営手腕」を表に立てる作品があってもよい。
「あさが来た」は前向きなお転婆を描くという点で朝の連ドラのテンプレ通りではあるが、経営の困難に知恵と根回しで挑むという点で「半沢直樹」や「下町ロケット」と同じ系譜にあり、それが広く視聴者を楽しませているように見える。
(当節のヒットドラマのもう一つのキーワードは「相棒」や「ガリレオ」に見られる「謎解き」だろう。大河ドラマでも「経営」と「謎解き」を組み合わせ、最終的には大きな国難を突破する話を選んではどうだろう。)

もう一つ、小説を読んで感じたのは、広岡浅子の足跡において、女であることは思ったほどに道を塞いでいないことだ。
少なくとも実家(のちの三井財閥)や嫁ぎ先(加島屋)ではかなり若いころから浅子に大きな権限を委ねていたふしがあるし、渋沢栄一、五代友厚らビジネス界隈の大物も彼女との面会、相談、支援に応えている。もちろん「女子と話す気はなか」と炭鉱鉱夫たちの反発を受けたり、そもそもまだ女性が普通選挙の対象でないという制限はある。それでも、浅子の困難の素因はたとえば幕末の金融政策の崩壊や炭鉱運営の困難によるものであって、女だから、ではない。
当時に比べれば女性の発言権は格段に伸張したはずなのに、現在、財界にも政界にも広岡浅子が見当たらないように思えるのはなぜだろう。

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