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2015/11/04

遠き昭和に 『風光る丘』 小沼 丹 / 未知谷

Photoいたって呑気な大学生、広瀬、杉野、石橋、洞口の4人は、1台のポンコツ車を後生大事に共有する<ガラ・クラブ>の仲間でもある。
この夏は4人で信州善光寺、さらに蓼科高原まで足を延ばすこととなった。しかし、紹介された宿をはじめ、奇妙な人物が次々登場し、どうも様子がおかしい……。

小沼丹は吉行淳之介、安岡章太郎らと同時期に活躍した、いわゆる<第三の新人>の一人。主要な作品は現在講談社文芸文庫で手に入れることができる。
(全集は未知谷から4巻+補巻の全5巻で発行されているが、1冊12,000円といささか高値の花。)

作品の多くは自らの追憶や近況をおっとりユーモアでくるんだ私小説風短編だが、人の死さえさらりと描く少しばかり意地悪な筆致になんとも言えない滋味があり、独特な漢字遣いと併せ、読書の楽しみここにありという心持ちが得られる。

……ところが、全集にも収録されず、40年ぶりに復刊された本作『風光る丘』はそういった小沼丹の特色をことごとく覆す。
まず、昭和36年(1961年)から翌年にかけて地方紙に連載された長編であること。ほかに長編がないわけではないが、たとえば代表作の一つ『更紗の絵』にしても基本は連作短編集である。ところが、『風光る丘』は起承転結のはっきりした900枚の大作。しかも、苦味など隠し味にも見当たらぬ明朗な青春ユーモア小説。地の文の漢字遣いもごくごくオーソドックスだ。

思い起こせば昭和の邦画界では社長シリーズ、駅前シリーズ、クレイジーキャッツ主演作など、市井を描いた他愛ないコメディが人気を博したものだが、それに近いといえば近い(そういえば駅前シリーズの原作は小沼の師にあたる井伏鱒二の『駅前旅館』だった)。登場する若い女の子の名が鮒子、鮎子、亀子。亀子は登場するたび映画女優を気取ってくねくねと尻を振り、口を開けば「いかす」「頭に来ちゃう」
小沼丹の語り口に魅かれた方にお奨めしてよいものかどうか、少し迷う。

とはいえ、このようにのんびりした「てんやわんや」も今や絶滅危惧。結末には洋次郎風味も一サジ加わって、ゆったり昭和テイストに浸りたい秋の夜長にぜひ。

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