フォト
無料ブログはココログ

« 羊をめぐる妄言 『強欲な羊』 美輪和音 / 創元推理文庫 | トップページ | 二十億光年の長距離散歩者の夢想 『孤独のグルメ2』 原作 久住昌之、作画 谷口ジロー / 扶桑社 »

2015/10/08

住むという、ただそれだけのことが 『ニュータウンは黄昏れて』 垣谷美雨 / 新潮文庫

Photoバブル崩壊直前に「新宿駅までたったの三十分!」の分譲団地を購入してしまった母、織部頼子。
その娘、琴里は現在フリーター、27歳。
物語はこの二人からの視点を中心に、団地の住人や琴里の友人らを交えたチラシ寿司的に進行していく。

バブルが崩壊して以来、都内の地価や従業員の給与が永遠に右肩上がりに上がっていくという神話はあっさりと崩れ、住宅ローンを抱えたまま頼子の夫は部長職を解かれる。団地を売ろうにも資産価値は下がる一方で、売っても莫大なローンが残るばかりだ。頼子は生活のために節約とパートに明け暮れるが、高齢化、過疎化が進み、バス路線さえ廃止されるという「ニュータウン」に未来を夢見ることができない。そんな折も折、当番で出席した理事会で、団地の建て替え案が浮上する。
一方、大学は出たものの就職に失敗し、月々の奨学金の返済に苦しむ琴里の前に、資産家の家に育ったイケメンの青年が現れる。6万もするオペラへの誘い。友人はなぜこの男を自分に紹介したのだろう……?

バブル崩壊後、中流家庭が住まい、仕事、結婚など、さまざまなアングルで悪循環に陥っていくさまが短い章建てで手早く描かれる。文学作品というよりテレビのドキュメンタリーに近い。
深掘りよりスピード感を狙ったのか、ストーリーはどんどん先に進んでいく。なにしろ同じ章に一人称と三人称の文体が混ざるくらいは当たり前、当人にとって重要であったはずの男女のなりそめがいずれもすっぱり省略されて過去のこととされているなど、いちいち細かいことにはこだわらない。

主人公のトラブルの根源は、住宅ローンを組んで都心から距離のあるニュータウンに分譲団地を購入したことにある。しかし、俯瞰してみれば、実は資産を持つ者と持たない者の格差の拡がりが最大の問題である(ピケティ……どこへ行った?)。
「住活」(という言葉でよいのか)に加え、「就活」、「婚活」、すべてその格差に紐づいて持たざる登場人物を苦しめる。

格差とは厳然たる状況、状態なので、それに対する解決策など簡単に見つかるはずがない。
頼子、琴里は(よほどのことがなければ)呑気で前向きな性格と描かれ、全体がすらっと流せる文体で書かれているため、読み進むのは楽だが、織部家の先々を考えると暗澹とせざるを得ない。

もちろん、これはドキュメンタリーでなくフィクションなのだから、頼子や琴里に救いの手を差し伸べる展開も不可能ではなかったろう。実際、琴里の奨学金については、やや甘めの救済が用意されている。しかし、手が差し伸べられるのはそこまで。
終盤、抜本的な脱却への可能性はさりげなく示されるものの、物語はあっさりと終わり、後は読み手に委ねられる。そこがいい。良書である。

« 羊をめぐる妄言 『強欲な羊』 美輪和音 / 創元推理文庫 | トップページ | 二十億光年の長距離散歩者の夢想 『孤独のグルメ2』 原作 久住昌之、作画 谷口ジロー / 扶桑社 »

小説・詩・文芸評論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/547008/62431216

この記事へのトラックバック一覧です: 住むという、ただそれだけのことが 『ニュータウンは黄昏れて』 垣谷美雨 / 新潮文庫:

« 羊をめぐる妄言 『強欲な羊』 美輪和音 / 創元推理文庫 | トップページ | 二十億光年の長距離散歩者の夢想 『孤独のグルメ2』 原作 久住昌之、作画 谷口ジロー / 扶桑社 »