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2015/10/11

これで私は戦えます 『黒博物館 ゴーストアンドレディ(上・下)』 藤田和日郎 / 講談社 モーニングKC

Photo_4藤田和日郎(かずひろ)の難点は、おそらく作者が作品に入れ込み過ぎるのだろう、連載が長引くにつれ、登場人物が増え、新たな因縁が増殖し、ストーリーが熱すぎる納豆スパゲッティになってしまうことだ。
『うしおととら』も『からくりサーカス』も『月光条例』も、連載開始当初は本当にわくわくしたものだが、最後まで追うとなるとへとへとになってしまうのである。

それに比べると、同じ作者の中短編は手軽に楽しめていい。この『黒博物館』シリーズなど、単行本1巻、2巻で完結するので、いかに設定や展開が寿司詰めでもヒートアップする物語になんとか取り残されなくてすむ。

『黒博物館 ゴーストアンドレディ』の主人公はフローレンス・ナイチンゲール(フロー)。言うまでもなくクリミア戦争での負傷兵たちへの献身的な看護で知られ、「白衣の天使」という言葉のもととなった実在の女性(1820-1910年)である。なお、実際には彼女の貢献は、医療・保健改革、病院設計、統計学の導入など、分析、ネゴシエーター的なものが中心だったらしい。
そのフローがロンドン、ドルリー・レーン劇場に訪ね、自らを取り殺してほしいと願った相手が、劇場に現れる幽霊「灰色の服の男」(グレイ)。
フローとグレイに対するに、クリミアの病院で縦割り行政を盾にフローの献身的な改善案をことごとく抑え込もうとするホール軍医長官。ホール長官の側につき、フローやグレイと敵対する幽霊が女装の美剣士シュヴァリエ・デオン……。

ホール長官は、クリミアの戦地で実際にナイチンゲールら看護師団の従軍を拒否した人物。ドルリー・レーン劇場の「灰色の服の男」は、彼が現れればその芝居はあたる、とロンドン子に知れ渡った実在の(?)演劇好き幽霊。役者に演技指導することもあったらしい。シュヴァリエ・デオンも実在のフランスの外交官、スパイで、生涯の前半を男性、後半を女性として生きた伝説的人物。

これら、もともとは接点のなかった人物、幽霊を集めて一同に配し、さらにロンドン警視庁の犯罪資料館(黒博物館)でグレイが可愛いキュレーターさん相手に昔語りをする大枠を用意、のみならず生きている人間には「生霊」がついていて日々それが争い合っているという設定まで持ち込み(スタンドか…)、要所要所にシェークスピアの名台詞を織り込むなど、隅々までこてこての藤田イズム満漢全席。

フローが「絶望」したらグレイがフローを取り殺すという約束など、無理押しもなくはないが、ともかくぐいぐい読み手を引っ張る展開、決め台詞の連発。斜(はす)に構えたグレイが泣ける。そしてなにより、狂信的なまでの目力を示すフローがいい。
ランプを手に深夜の見回りをする「ランプの淑女」の影にキスをする負傷兵。この押しつけがましい絵柄に十分な説得力を持たせられたのだから成功である。作者の代表作の一つとなるに違いない。

Photo_5
〔おまけ〕
フローやグレイを付け狙うシュヴァリエ・デオンの幽霊。この作品では悪役だが、沖方丁による小説、アニメ作品では騎士道を重んじ、妹を殺した犯人を追う役柄で活躍している。古くは名香智子の『花の美女姫』シリーズの作中劇(仲間内で作製した映画)で、カーモールが女装の美青年デオンを演じている。

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