『河童・天狗・妖怪』 武田静澄 / 河出文庫
河童や天狗、ざしき童子など、この国で連綿と語り継がれてきた妖怪、またその存在をうかがわせる怪しい出来事について、それぞれ数行から数ページで紹介されている。
幾度かの妖怪ブームを経た今、「初めて知った」「合点できた」という事例はさほど多くない。それでも天狗(らしきもの)にさらわれた話や河童の腕が抜ける話、河童の子供をはらんだ女の話、山チチ、夜行さん、オシラさま、ウブメ、沖縄のヒチマジムン、犬神、ミサキ、舟幽霊など、ページをめくるごとに楽しい。
出会うと熱を出して死んでしまうのや、頭に大きな穴をあけて脳みそをすうやつなど、人に害をなす恐ろしい妖怪も興趣を招くが、正体のはっきりしない
同地方でいうキノコというのも、新潟湯之谷村のカブキレコという妖童も、これに似ているが声はださない。
などというさらっとした記述の楽しさもまた堪えられない。
作者は鈴木大拙に師事した民俗学者、伝説研究家。1995年に亡くなられたとのことだが、本書の巻末には「武田静澄氏のご遺族にお心当たりのある方は、編集部までご一報いただけると……」云々とある。Amazonなど調べてみると地方別に伝説をまとめた本など著作も多く、それだけ本を出すにはそれなりに出版社との付き合いもあったはず。亡くなって20年で遺族も不明になるというのは寂しいものがある。
ところで、山の神をはじめ、さまざまな妖怪について紹介している章には、ご存じ一つ目小僧や一本足の怪童が取り上げられている。
かたや、
ギリシア語でゲース・クレイトロン(大地の閂)と呼ばれる場所があり、そこにアリマスポイ人が発見される。額のまんなかの一眼によって知られる民族だ。
(クテシアスの報告によれば)一本しか脚がないために単脚族と呼ばれている人間の種族を紹介している。脚は一本だが、驚くべき軽快さで跳ぶという。
こちらは古代ローマの博物学者、プリニウスの一節(澁澤龍彦『私のプリニウス』、河出文庫)。
澁澤は、人間の想像力には限界があって、結局は類型化をまぬがれないのではないか、などと少々無粋な所感をもらしているが、それでも2000年も昔のローマの博物誌と極東の島国の妖怪がそっくりというのはなかなか楽しいではないか。