誰もいないよ 『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』 花房観音、川奈まり子、岩井志麻子 / ハルキ・ホラー文庫
実話系怪談本は新刊があまりに多く、とてもすべてはチェックしきれない。
かといって書評やタイトル、表紙絵があてになる世界でもないので、読むのはかなり行き当たりばったりだ。ハズレにがっかりもないわけではない。
そんな中、ほかの文庫を求めたコーナーでたまたま手にとった『女之怪談』、これがなかなか怖い。
巻頭の花房観音の作品では、語り手が小説を書くと聞いてすり寄ってくる作家志望の女たちが虚勢を張りつつ崩れていく。FacebookやTwitterをトッピングに、怪奇より妄執、妄念といったほうが近い女同士の生(なま)の暗闘を描く花房の筆遣いは怪談としては必ずしも上質ではないが、この『女之怪談』という怪談集について一つのかたちを明確に示している。こういうことだ。この本で語られることは人づてに聞いたり、取材した怪異ではなくて、あたしたち作家の、女の、自分語りなのですよ。
流されたまま続けて読み進む川奈まり子の二篇、これは傑作。
「ひよみのとりおにをんな」では彼岸花を引き抜いた書き手の全身に湿疹が噴き出し、治療に赴いた病院で知り合いの女が執拗に語り手の精神の壁を掴み剥がしていく。
続く「沸沸」はさらに壮絶で、近所に越してきた穏やかで面倒見のよい女が語り手の家庭を二重に壊す。語り手は周囲に救いを求めることもできないまま崩壊していくのだが、冷静に読み返せばおよそ「実話」の範疇ではないこの恐ろしい話が、花房観音の作品と並ぶことによって女たちの実話としてするりと読めてしまう。読み手(男)は絡新婦のユルい巣に逆さづりになって狼狽え、青ざめるばかりだ。
最後の岩井志摩子はいつものペース。
花房、川奈の流れに神経を剥き出しにされた読み手は、オーガニズム直後の女が背筋をなぞられただけで声をこぼすように、もはやわずかな刺激にも己の中で何度も闇を振り返っては悲鳴を漏らさざるを得ない。
我が家のパーティーにきてください
誰もいないよ
わりと簡単に人を殺すんですよ
いや、わずかな刺激などと油断はできない。リラックスして書かれたようで、それでも十分に、危ない。
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