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2015/08/27

『真夜中の檻』 平井呈一 / 創元推理文庫

Photo楽しみに取り寄せた怪奇小説アンソロジーに重箱の隅をつついて歩く。卑しい難癖が、濡れた背中にザラザラ砂が付いたまま寝具に入ったようで嫌な感じだ。

験直しに続く一冊は捻りなし、ただ褒めることにしたい。讃えるにふさわしい一巻である。

平井呈一(1902-1976)、翻訳家、編集者。とくに英米の怪奇小説、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』やレ・ファニュ、アルジャーノン・ブラックウッド、アーサー・マッケンらをこの国の読書家に紹介したことで知られる。
中菱一夫名義で「真夜中の檻」「エイプリル・フール」なるホラーの中・短篇を上梓しており、本書『真夜中の檻』は当二作に東西の怪奇小説や幽霊談について書かれた随想、緒言の類を集め加えたもの。

中篇「真夜中の檻」では、一人の歴史教師が古文書を求めて山村の館を訪ね、やがて怪異に取り込まれる。怪異の正体は明らかでないがいかにも「魔」と称すに相応しく、全頁これ淫靡で執拗な妖しさに満ちている。海外の怪奇小説を思わせる堅牢な構造にこの国在郷の物気配が満ちる、ありそうでなかった怪奇小説の傑作。
一方の「エイプリル・フール」はドッペルゲンガーと叶わぬ純愛を素材にした作品だが、同じ男女の仲を描いてもねっとり濡れた闇が基調の「真夜中の檻」に比べ、白い画用紙にクレパスで描いたような都会的軽妙さに味わいがある。ウォルター・デ・ラ・メアあたりが書きそうな話でもある。
肌合いは異なるが手練れの技巧溢れた二作に、もし平井が怪奇小説の創作により貪欲だったらと思わずにいられない。

東雅夫のバイオグラフィーによると平井の人生は決して順風満帆ではなかったようだが、本書の後ろ半分を占める随想にはそのような気配は微塵もなく、珍しいチョウやトンボを追う少年のようにただ怪奇の野を駈ける。そのくせ文章は洒脱、怪奇小説を語ってこの粋はなかなか見かけない。

平井が怪奇小説の翻訳・紹介に努めた当時には翻訳家が手に入れることすら困難だった作家の作品が、クリック一つで簡単に手に入るこの時代。だが我々はそれ故にホラーに倦み、飽きていないか。いずれが幸いかと問えば言うまでもない。

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