『怪奇文学大山脈 西洋近代名作選』(全3巻) 荒俣 宏 編纂 / 東京創元社
かつて後楽園遊園地にオバケ屋敷を据えるにあたり、楳図かずお館、水木しげる館に並んでアラマタヒロシ館が設けられたという(楳図かずお『神の左手悪魔の右手』小学館文庫 第1巻 巻末エッセイより)。畏れ多くもその天下の大荒俣先生をつかまえて不敬不遜もいいところだが──実のところ昔から荒俣本は好きでない。ごめんなさい。
「荒俣宏の怪奇幻想文学におけるライフワーク 巨大アンソロジー全3巻」と謳われるこの『怪奇文学大山脈 西洋近代名作選』、情報の詰まった、手間をかけた書物であることはわかる。わかるのだが、絶賛するには茶色いモヤモヤが邪魔して仕方がないのだ。
極端な話(くどいようだが天下の大研究家、コレクターをつかまえて言うべきことではないかもしれないが)、荒俣宏は怪奇小説を好きでもなんでもないのではないか!? とさえ思う。
たとえば、未訳の怪奇小説が2作、あるとしよう。一方は海外で比較的簡単に入手でき、一方は掲載誌が極めてレアで入手困難。荒俣宏はおそらく問答無用で後者を騒ぐのである。古い雑誌を集めるにしても、誰が何を書いた、誰の表紙絵がこう、そういった志向性より全巻揃えることに走る。揃えて自慢してしまう。
『怪奇文学大山脈』の内容、構成を見てみよう。
【19世紀再興編】【20世紀革新編】【諸雑誌氾濫編】と銘打たれた各巻巻頭にはそれぞれのテーマと時代背景、巻末には収録作と作者の詳解が相当のボリュームで掲載されており、それらを読むだけでも興味深い。それは否定しない。
しかし、西洋怪奇文学の系統を、大きな枝組みにまとめつつ紹介するにあたり、肝心の収録作品が一部にせよ以下のように選ばれ方をしていたならどうか。
・著名怪奇小説家の作品と類推される(証拠はない)作品
・偽作であると推測され、そのこと自体が興味深い作品(作品そのものはたいしたものでない)
・ある著名怪奇小説家の作品だが、とくにその特徴を表しているわけでもなく、ただ短編集、アンソロジー等に未収録というだけの小品
・当時すでにパルプ扱いされていた雑誌の傾向を表す作品の1つ
などなど
その結果、『大山脈』はその山脈の峰、頂ではく、闇雲に際物を追って裾野を徘徊する。
どこが『怪奇文学』なのかさっぱりわからない、SFともファンタジーとも言い難い、ただ正統でないとしか言いようのない畸形的作品、非常に怖い恐怖小説で知られる作家の、しかし代表作に比べれば粗悪な作品。万事とは言わないが、そういった作品をどう読めばよいのか。
しかも、“なぜ選ばれたか”に比重のおかれた作品の背景を理解するためには、いちいち巻頭、巻末の解説記事をめくり返さなくてはならない。──つまるところ、一つひとつの作品、さらには読み手が大切にされていないのだ。
もちろん、過去の作品集、アンソロジーからこぼれた作品を集めたい、あるいは一作一作は必ずしも上等でなくともある条件下の作品を集めて楽しみを共有したい、そんなマニア、コレクターの気持ちはとてもよくわかる。ニーズもあるだろう。
それでも、この集成には納得できない。選び方、騒ぎ方が違う。
高踏を良しとも言わないが、どうも荒俣本は精神のあり方が卑俗、卑近にすぎるのである。
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