『ふるぎぬや紋様帳<一>』 波津彬子 / 小学館 フラワーコミックススペシャル
インテリア事務所に勤める伊都子は、箱いっぱいの祖母の遺品を送られて困り果てる。彼女には着物についての知識も、着こなす趣味もないのだ。やむなく処分しようと紹介された古着屋に赴くが、その途上一匹の猫が現れて……。
幻の古物商を舞台に登場人物が幽冥界を行きつ戻りつ、懐かしい人物と夢に巡り合ったり、いにしえのすれ違う思いの悲しみを味わったり。これではまるで作者の代表作『雨柳堂夢咄』シリーズの粗筋だ。猫が媒介となって不思議が起こるというくくりでは少し前の『女神さまと私』シリーズのようでもある。──否、波津彬子に限り、そんなことは大した問題ではない。
読み手はよい銘柄のワインを楽しむように、あやかしのひと時をただ味わえばよい。古酒はときに苦く、ときには甘い。
繰り返されても飽きることのない淡い白昼夢のごとき展開、時のフィルター越しに描かれる激しい愛憎、それを彩る軽妙なユーモアと和漢洋のアンティークたち。
波津彬子の作品はたいてい連作短編の形で提供され、この二十年余り遡ってもおおむねはずれはない。
ただ少し厄介なのが作品タイトルで、『異国の花守』の続巻が『異国の花守 花の聲』でその合本が文庫『異国の花守』──というのはまああり得るレベルだが、「うるわしの英国」シリーズ、単行本では『月の出をまって』『中国の鳥』『空中楼閣の住人』『花々のゆううつ』『扉をあける風』の5冊が文庫では『猫は秘密の場所にいる』のタイトルで3巻、などというのは知らないと途方に暮れる。
ちなみに知名度では『雨柳堂夢咄』ほどではないかもしれないが、『異国の花守』も「うるわしの英国」シリーズも、読み応えはとびきりだ。
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