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2015年7月の6件の記事

2015/07/29

『監察医SAYOKO(全5巻)』 安富高史 / 秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス

Sayoko第1巻冒頭。2コマめに描かれるのは四肢を切断された全裸女性の胴体。その目は閉じることのないよう針金で留められていた。
次の見開き。主人公小夜子の初登場シーン。結婚記念日にレストランで食事中の彼女は夫に向かい

「そのぐずぐずの水死体の腹を切ったとたん! シャコが!! こんなに大きいのがピョーンって中から!」

と楽しそうに検死解剖を語る──。

『監察医SAYOKO』の単行本が発行されたのは1996年から1998年にかけて。20年近く前の作品だ。未見だが菊川玲主演でテレビドラマ化もされたらしい。
しかし原作のコミック作品の書評はほとんど見かけないし、作者の他の作品も寡聞にして知らない。忘れられた作品と言っても過言ではないだろう。

しかし、正義感あふれる優秀な監察医でありながら外見は中学生にも間違えられる主婦──そんなヒロイン七浦小夜子のキャラクターはなかなか秀逸で、子供のような容貌とグロテスクな死体描写とのアンバランスがたまならい。

また、ストーリーも、グロ、ギャグばかりとあなどってはいけない。ミステリとしての密度、精度はかなり高いのだ。
基本的に一話完結、サイコパス、パラフイリア(異常性欲者)による猟奇事件を描き、被害者の解剖所見や毒物、爆破トリックなど小道具の描き込みも詳細かつバラエティに富む。プロファイリング、DNA鑑定、カルト教団、乖離性同一性人格障害(多重人格)など、当時旬だった話題もバランスよく取り込まれ、犯人と小夜子の一対一のシリアスな対決があったり、政治・組織的なテーマに挑んだり、なかなか飽きさせない。

筆の乗った3巻にいたっては、

「そう言えばあたし あの人達の名前も聞かなかった」
   (FILE.19 サブウェイ・マーダー)
「何が助けてくれたのかは あたしにもわからない」
   (FILE.22 ジャックの建てた家)

等、端正なミステリから意図的に踏み外した一種奇妙な味わいのエンディングが目立ち始め、さらに4巻、5巻では強大なサイコパスとの苦闘が主となり、一方1巻から小夜子とコンビを組んだ好漢が惨殺されるなど読み手を振り回す。ともかくいろいろ凄い。

Kindleやスマホのアプリなど、電子ブックでも入手できるようだ。いかにもマンガ、な絵柄には好きずきがあるかもしれないが、90年代ならではのアイテムを詰め込んだトリッキーなサイコサスペンスを読んでみたいという方には強くお奨めしたい。

2015/07/23

『決してマネしないでください。(2)』 蛇蔵 / 講談社 モーニングKC

2Knowledge is a deadly friend
If no one sets the rules

というわけで戦慄の『決してマネしないでください。』第2巻、1巻で取り上げられた偉人が誰だっけか思い出せないほどの面白さだ。

プレゼント応募はがきのアンケート、
「今後の『決してマネしないでください。』について、一番期待するもの」
の選択肢が
 01:理系トリビア
 02:偉人伝
 03:ラブコメ
 04:実験
 05:その他(ご自由にお書きください)
とあって、そのまま本作のウリになっているのが楽しい。

理系の理論では動かないはずの「03:ラブコメ」が揺れた。飯島さん素敵。
「02:偉人伝」、ニュートンてこんな奴だったのか。ハレーさんジェントル。
「01:理系トリビア」、近付くサンタの色は青い!!! でもこのカットは遠ざかるサンタ?
書下ろしおまけ「04:実験」も充実。でもよゐこは決してテルミット反応のマネはしないでください。

2015/07/16

『ふるぎぬや紋様帳<一>』 波津彬子 / 小学館 フラワーコミックススペシャル

Photoインテリア事務所に勤める伊都子は、箱いっぱいの祖母の遺品を送られて困り果てる。彼女には着物についての知識も、着こなす趣味もないのだ。やむなく処分しようと紹介された古着屋に赴くが、その途上一匹の猫が現れて……。

幻の古物商を舞台に登場人物が幽冥界を行きつ戻りつ、懐かしい人物と夢に巡り合ったり、いにしえのすれ違う思いの悲しみを味わったり。これではまるで作者の代表作『雨柳堂夢咄』シリーズの粗筋だ。猫が媒介となって不思議が起こるというくくりでは少し前の『女神さまと私』シリーズのようでもある。──否、波津彬子に限り、そんなことは大した問題ではない。
読み手はよい銘柄のワインを楽しむように、あやかしのひと時をただ味わえばよい。古酒はときに苦く、ときには甘い。

繰り返されても飽きることのない淡い白昼夢のごとき展開、時のフィルター越しに描かれる激しい愛憎、それを彩る軽妙なユーモアと和漢洋のアンティークたち。
波津彬子の作品はたいてい連作短編の形で提供され、この二十年余り遡ってもおおむねはずれはない。

ただ少し厄介なのが作品タイトルで、『異国の花守』の続巻が『異国の花守 花の聲』でその合本が文庫『異国の花守』──というのはまああり得るレベルだが、「うるわしの英国」シリーズ、単行本では『月の出をまって』『中国の鳥』『空中楼閣の住人』『花々のゆううつ』『扉をあける風』の5冊が文庫では『猫は秘密の場所にいる』のタイトルで3巻、などというのは知らないと途方に暮れる。
ちなみに知名度では『雨柳堂夢咄』ほどではないかもしれないが、『異国の花守』も「うるわしの英国」シリーズも、読み応えはとびきりだ。

2015/07/08

『べにはこべ』 バロネス・オルツィ、村岡花子 訳 / 河出文庫

Photo『スカラムーシュ』『黒いチューリップ』『怪傑ゾロ』などと並び称されるサスペンスロマンの泰斗、しかも作者は安楽椅子探偵『隅の老人』のバロネス・オルツィ! いつか読まねばと長年気にかけてきたのが、河出文庫から『赤毛のアン』の村岡花子による訳本が再発され、ようやく機を得て読むことができた。

フランス革命で斬首の危機に瀕した貴族たちを、海峡を渡って助けんとするロンドンの秘密結社「べにはこべ」。
首謀者は誰?という謎に始まり、敵の奸計に陥るヒロインにイライラハラハラするうち、気がつけば読み通していた。ただ、最後の場面、危機を逃れるアイデアは現在なら甚だしい差別偏見にあたり、このまま現代人として評価(あるいはコミック、映像化など)するのは難しいようにも思われた。

巻末に村岡花子による短い「あとがき」があるのだが、そのきりりとした文体に吉高由里子の声が被さって聞こえたのには苦笑い。朝の連続テレビ小説をそう熱心に見ているつもりはなかったが、知らぬうちに村岡花子の声はあの「知ってました?」の声になってしまっていたようだ。

2015/07/07

『実話蒐録集 黒怪談』 黒 史郎 / 竹書房文庫

Photo怪談が怪談たるためには、最低でも(1)語り口に妙がある、(2)怪異が立証的である、のいずれかが必要だろう。
(2)は、例えば「夢でない証拠に複数の人間が見ていた」「指の跡が残っていた」といった条件のことである。

実話怪談もブームになって久しく、読み手も多少のことでは騒がない。無意識に厳しく(1)、(2)を求めるようになる。
すると、あれこれ気になることもある。

最近発売された『実話蒐録集 黒怪談』に「不運の男」という掌編があった。
会社の仲間で酉の市に出かけたところ、アルバイトの青年がいろいろ不運な目に遭い、最後には屋台の前で倒れ、脳梗塞で死んでしまう。
しかし、これは不運でもなんでもない。「ベビーカステラを喉につまらせる」「りんご飴で口の端を切る」「吐瀉物の上に手をつく」「三人連続で子供にぶつかる」等、彼の奇行の一部は脳梗塞の前兆(顔や腕の麻痺等)にあたるものだったに違いない。同行する者がそれに気がついてやれなかっただけではなかったか。

2015/07/06

『犯罪』 フェルディナント・フォン・シーラッハ、酒寄進一 訳 / 創元推理文庫

Photoベルリン法曹界の現役の刑事事件弁護士が、自身の関わったさまざまな犯罪に想を得て編み上げた硬質な11の短編集。

創元推理文庫にラインナップされているが、「ミステリ」「探偵小説」の類ではない。

一生愛し続けると誓った妻を殺めた老医師。ひ弱だが美しい姉弟が落ちていく結末。兄を救うために裁判所相手に知恵を絞る一家の末っ子。
全体を覆うのは散文詩のような抒情性だが、一方ではアリバイをテーマにしたコンゲームや冷徹なプロの殺人者との対決も描かれる。作者の手腕は一筋縄ではいかない。

一人の心優しい銀行強盗の人生がイーリアス、オデッセイアのごとき英雄流浪譚と化していく、巻末の「エチオピアの男」がひときわ素晴らしい。
20ページあまりの掌編なのに、ここで具現化されているものは神話にも匹敵する「荘厳」性なのだ。

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