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2015/05/01

『お供え』 吉田知子 / 講談社学芸文庫

Photo「どうしたの。怖い夢でも見たみたいに」
ワシャ、ワシャと袋の口をしばるような音がして気がつくと、頭の上のほうでくぐもった女の声が聞こえる。本を読んでいるうちに眠ってしまったのか。ねばつくような疲れに目が開かない。体が重い。
「汗びっしょり。ふいたげる」
言葉の表向きの意味と裏腹に、若いとは言いがたい女の声にはぬるみがなく、舞台の稽古のように抑揚がない。
「夢は怖いものねえ。ふつうに見えてた風景が、どんどん違うものになっちゃう」
違うもの。違う世界。そうだ。今日こそはと女の帰りを待ちながら読んでいた吉田知子の『お供え』のように、日常的な光景だったはずのものが途中から少しずつずれていく。とりまくものが同じかたち、同じ色をしていながら壊れていく。二度と戻れない。
「余計なお世話って言っても、わからない。ほっといてって声をあげても、押しかけてくる。本ばかり読んで、自分が正しいと思い込んでるから、オバケよりうっとうしい」
なんだろう、誰のことだろう。
『お供え』のなかの話だろうか。山菜を取りにいった斜面で真新しい有刺鉄線を踏み越えてしまう「迷蕨」、伯母が亡くなったと聞かされて従弟と海に突き出した長い橋を渡り、その先で伯母と会う「海梯」、未亡人が自分の家の前に毎朝かかさず花が置かれることに気がついて、という「お供え」。それから。
「そんなこといいから、捨ててきてよ。これ」
それからほかにどんな話があったか。すぐそばでワシャワシャする音が耳を打って考え続けることができない。何を捨ててこいというのか。
「あんたが勝手にやったの。あたしはこんなことまで言ってない」
なにをしてしまったというのか。どこから後戻りできなくなってしまったのか。
「車でどこにでも捨ててくればいいじゃない」
運転などできない。車も持っていない。
「知らないわよ。その袋のまま山のなかにでも捨ててくれば誰にも見つかりっこないし」
山のなかになにを捨てろと。ワシャ、ワシャと黒いゴミ袋の音がうるさくて、重いこわばった体がぐらぐら転がるようで、考えることができない。
「下に落ちてるの、なに、それ。こいつの本? 『お供え』だって。あははははは」
頭が下になる。腹のあたりにたまった濡れたものが顎にしたたる。鼻が押されて、開かない目から眼球が飛び出す。

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コメント

レビューは実質数行しかない。
内容的にもおよそ書評とは言い難い。
すみません・・・。

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