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2015年5月の3件の記事

2015/05/20

『からくり探偵・百栗柿三郎』 伽古屋圭市 / 実業之日本社文庫

Photoアニメタッチの表紙(かお)をした、いかにもなライトミステリがあふれている。もちろんライトノベルかどうかなどレッテルはたいした問題でない。読んで面白いかどうか版元や体裁だけではわかりにくい、それが厄介なのだ。

『からくり探偵・百栗柿三郎』。表紙もタイトルもいかにもB級の佇まいだが、「からくり」の一言に釣られ、騙されたつもりで読んでみた。

舞台は大正、震災前の浅草。発明家の百栗柿三郎は、女中の千代、機械式招き猫の助手・お玉さんを引き連れて、(いやいや)今日も事件の解明に乗り出す──。

語り手の千代ののんびりした口ぶりとは裏腹に、描かれる事件は人造人間(ホムンクルス)による殺人、首ちょんぱのバラバラ事件、と存外に凄惨だ。最初の推理を覆し、さらに一ひねりして真相にいたるなど、ミステリとしての骨格もなかなか悪くない。序章、幕間劇をはさんだ全体構成も終章までくると納得だ。

もちろん、大正期の市井を描けているか、とか、期待したほどは「からくり」が推理にからまない、など、欲を言えばキリがない。それを作者の穏やかなサービス精神が上回った。午後の一時を楽しく過ごせたのだから良作と称えるべきだろう。

2015/05/08

あたし冬眠していたのよ 『人外な彼女』 高橋葉介 / 早川書房

Photoちょっと見平凡な男の子のもとに、見かけは普通、実は妖異の類が現れる。それでも主人公は動じず、騒がず、争わず──

というのが『怪談少年』や『ヘビ女はじめました』など、ここしばらくの高橋葉介の新作短編集でよく見うけられるパターン。もちろん、ときには主人公ももがいたり逃げたり見ないふりをしたりするのだが、それでも追ってくるのがお化けというものだ。

正体を明らかにした魍魎はゴム人形のようだったり、巨大なクモ、蛇女だったりするが、たいていの場合コミカルかつ「奇妙な味」ふうのオチがつくので、ことさら怖い、気持ちが悪い、というものではない。

『人外な彼女』でも主人公の少年のもとにあれこれ怪しい女(少女から大年増まで)が現れ、という設定は変わらない。ただ、今回、少しだけテイスト違いなのが、少女たちのうちいく人かが主人公に思いを寄せつつ消えていくことだ。

教会でウェディングドレスを着る夢が果たせなくなって朝焼け空に灰と消える「吸血鬼はじめました」、一言もセリフのないまま主人公を守って死んでいく「鮫少女はじめました」、自分が人間でないと知らず結界の外でばらけてしまうワラ人形の登場する「鬼婆はじめました」などなど、いずれもこわばった頭をリフレッシュする。
ことに空き地に埋まっていた幼い蛇女を掘り起こす「蛇女はじめました」はホラー度、妖しい美しさともに本集の白眉、別れの窓際での「僕は余計な事ばかりしたね」のセリフが冷たいウロコのようにさらさらと胸のなかを流れる。

2015/05/01

『お供え』 吉田知子 / 講談社学芸文庫

Photo「どうしたの。怖い夢でも見たみたいに」
ワシャ、ワシャと袋の口をしばるような音がして気がつくと、頭の上のほうでくぐもった女の声が聞こえる。本を読んでいるうちに眠ってしまったのか。ねばつくような疲れに目が開かない。体が重い。
「汗びっしょり。ふいたげる」
言葉の表向きの意味と裏腹に、若いとは言いがたい女の声にはぬるみがなく、舞台の稽古のように抑揚がない。
「夢は怖いものねえ。ふつうに見えてた風景が、どんどん違うものになっちゃう」
違うもの。違う世界。そうだ。今日こそはと女の帰りを待ちながら読んでいた吉田知子の『お供え』のように、日常的な光景だったはずのものが途中から少しずつずれていく。とりまくものが同じかたち、同じ色をしていながら壊れていく。二度と戻れない。
「余計なお世話って言っても、わからない。ほっといてって声をあげても、押しかけてくる。本ばかり読んで、自分が正しいと思い込んでるから、オバケよりうっとうしい」
なんだろう、誰のことだろう。
『お供え』のなかの話だろうか。山菜を取りにいった斜面で真新しい有刺鉄線を踏み越えてしまう「迷蕨」、伯母が亡くなったと聞かされて従弟と海に突き出した長い橋を渡り、その先で伯母と会う「海梯」、未亡人が自分の家の前に毎朝かかさず花が置かれることに気がついて、という「お供え」。それから。
「そんなこといいから、捨ててきてよ。これ」
それからほかにどんな話があったか。すぐそばでワシャワシャする音が耳を打って考え続けることができない。何を捨ててこいというのか。
「あんたが勝手にやったの。あたしはこんなことまで言ってない」
なにをしてしまったというのか。どこから後戻りできなくなってしまったのか。
「車でどこにでも捨ててくればいいじゃない」
運転などできない。車も持っていない。
「知らないわよ。その袋のまま山のなかにでも捨ててくれば誰にも見つかりっこないし」
山のなかになにを捨てろと。ワシャ、ワシャと黒いゴミ袋の音がうるさくて、重いこわばった体がぐらぐら転がるようで、考えることができない。
「下に落ちてるの、なに、それ。こいつの本? 『お供え』だって。あははははは」
頭が下になる。腹のあたりにたまった濡れたものが顎にしたたる。鼻が押されて、開かない目から眼球が飛び出す。

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