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2015/04/21

難渋三昧 『山躁賦』 古井由吉 / 講談社文芸文庫

Photo決してわかりやすいものではないが、丁寧にたぐれば起承転結の読み取れないほどのことはなく──
などと考えていたら、伊勢屋の餡ころ餅より甘かった。古井由吉の中でも、これはなかなかに読みづらい。難しい。

古典が読めない、哲学書が難しい、物理化学の専門書に歯が立たない、そういうのとは違う。
なにしろ一部を除けばごくありきたりの現代語表記、一文節単位で何が書かれているかわからないほど難解な用語用例が並んでいるわけでもない。それでも、何を語りたいのか、もとい、何が起こっているか、その段でわからない。二度三度ページを捲り返せば多少とも理解に近づく、そんな気すらしない。

病み上がり、熱のひいた語り手が叡山、高野、あちらこちらの山、寺社仏閣を訪ねて彷徨する、それだけといえばそれだけの内容。それなのに、新幹線やタクシーで目的地に向かうと思えばずるりとその地にかかわる物語、歌、信仰に踏み入り、法師やら落ち武者やらが現れて無常を解き、一度限り関係のあった女が低くしゃがみ、塩鯖を担ぐ男をいくさの敗残の群れが囲む。どこまでが現実、幻想、そんな区切り、ハナから明確にする気さえなさそうでかなわない。
そもそも極端に主語の少ない文体で、その一文を語るのが当初の語り手なのかそれとも別の何者なのか、それすら模糊として曖昧。

作中に「むしろ聞えているはずの声がどれも、ほんとうには聞えていない。一点ずつは分明なのだがたがいに表情がとぼしく、あいだに深い沈黙があって揺がしがたく、聞えながらの聾唖の心地すらした」とあるが、それに近い。途方に暮れ行間に置き去られての十二章。

正直言えば古井由吉の一冊を読む、という目的意識がなければとうに投げた。
もちろん、この作者ならではの、ぬるりと妙に生々しい有様、など、ところどころなんとも云えぬ読み応えはあるのだが、全体の難しさに比べればお得感(笑)は薄い。

巻末、作者は本書について「こんなに伸びやかに書けるという幸運に、最晩年までもう一度、恵まれるだろうか、と今では自分でうらやんでいる」と語る。
伸びやかでこれか。できればそんなお愉しみはおき、たとえば『杳子・妻隠』のように、わからないなりにわかる、わかりにくいなりにわくわくする、その程度でご容赦いただきたい。
山の祟り神に祈る気分。

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