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2015/04/11

モノクロームの異彩 『カフカの「城」他三篇』 森泉岳土 / 河出書房新社

Photo森泉岳土の質感は、上質な映画や文藝作品に近い。

水で描いた線に墨汁を落とす、爪楊枝や割り箸でなぞる、という極めて特殊な描技法、加えてもともとは目鼻口を描かず、シルエットだけで人物を描いたというこれまた呆れるような作図法(現在は顔の表情も描かれている)をもって静謐な単色の画面を構築し、そこに配置される切れのいいセリフ、思いがけない、ときに残酷な展開。

初めての短篇集『祈りと署名』は、何が描かれているか、より、描かれたコマそのものが快感を招く、すぐれて実験「的」な作品集である。ただしその「的」は曲者で、凄いものを見ている気にさせることと、それが本当に凄いものかどうかは必ずしも一致しない。
そのため、何が描かれているか露呈しかけた第二短篇集『耳は忘れない』の後半や初めての長編『夜よる傍に』では、描画技法は同じはずなのにコマに緊張感がない。概してこの作者は直接的に登場人物の感情を描かせるとよろしくないようだ。

新作の大判単行本、『カフカの「城」他三篇』は、そんな「文学寄り」の作者が、ストレートに古典的な文藝作品をモチーフとした作品集。
  カフカの「城」
  漱石の「こころ」より“先生と私”
  ポーの「盗まれた手紙」
  ドストエフスキーの「鰐」
それぞれが大判の紙面、16ページで再構成される。

一寸見教科書的な選択だが、逆に、それらの小説がいかに先鋭的だったのかを今さらながらに再確認させられる。
ことにエッジの効いた「城」の示す、凡庸な主人公が1コマごとに迷宮にはまっていく感覚、これは一種カフカ以上にカフカ的だ。セリフや表情から主人公の感情、苛立ちを削り抜いたところが効果となった。
舞台を現代に置き換え、エスプリを効かせた「鰐」もよい。漱石やポーは原作を知らないと展開がわかりにくいところが難点か。

ところで、これだけ特殊な描画技法を選びながら、森泉のページの中で“コマ割り”の枠は頑固なばかりに古典的だ。手塚、石森ほどにも破調がない。
森泉が斬新なようで読み手に安心な理由の一つだろう。

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