迷走オーバードライブ 『赤い右手』 ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ、夏来健次 訳 / 創元推理文庫
ピエロの衣装、白塗りの仮面、真っ赤なマント。
そんな風体の輩が殺人現場をうろうろしていて、もしそいつが犯人だったらまったくバカだし、犯人じゃなかったらもっとバカである。
……てなことを指摘してしまう生真面目社会派のあなたも、「面白そうじゃないか!」とのってくるお耽美猟奇なあなたも、ミステリファンを自称するならとりあえず手に取ってみましょ、カルトな話題作、『赤い右手』です。少なくとも、退屈は──させません。
ハネムーン途上のカップルを襲う異常殺人! 犯人は「猫の死体を抱え」「ぎらついた赤目」「裂けた左耳」「犬のように尖った歯」「鍔がギザギザになった古帽子」「ダブついたズボンが栓抜きのよう」なヒッチハイカー、ついた呼び名も“コークスクリュー”! って、普通乗せるかそんな奴!? 案の定、車は奪われ、カップルの男性実業家イニス・セントエーメはさらわれる!
物語は、現地にたまたま居合わせ、カップルの片割れエリナ・ダリーを助けた外科医ハリー・リドルによって記録される。この外科医、自称「注意力と観察眼に恵まれ」ているくせに、その語りは松岡修造のように底なしに熱く(ぐごごご)、推理も描写も常に妄々アクセル全開だ。その語り口は廃車寸前の軽トラの暴走のようで、時系列はブレブレ、ここでその人物が死ぬことを言っちゃうか、そんな露骨な伏線ありか、こんな情緒不安定な医者大丈夫か、それでも進むよストーリー。
本書の評価は賛否両論、パルプ・マガジンならではの高テンションを楽しめる向きなら絶賛し、現在のミステリの水準で読んでしまう方には嫌われる。それはそうだ、なぜこれで〇〇〇が犯人じゃないんだ!! こんな〇〇の山が許されていいのかっ!!!
おそらく文体や展開に流されて、ミステリのツウほどフェア、アンフェア、伏線の有無につまづき、泥の迷路を歩くに違いない。作者の手の上で歌ってチャランゴ、踊ってルンバ。
いや待て、作者は勢いで書いただけで、そこまで考えていないのではないか? 否、考えないで怪作を残せるならそれこそ天才の証。
なにしろ1940年代に書かれたこの作品、語り手の名前がハリー・ポッターとトム・リドル(例のあの人、ヴォルデモート)の合体ロボなのだ! 知ってた??
バカボンのパパもおっしゃったではないか。
「これでいいのだ」
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