未熟さの理由 『憤死』 綿矢りさ / 河出文庫
森見登美彦が帯の惹句で「ほとんど私の理想そのものの『怖い話』」と持ち上げているが、それほどのものか。
森見当人の『きつねのはなし』など読めば、彼の求めるものがこんなレベルではないことはすぐわかる。
収録作はイントロダクションの「おとな」に、「トイレの懺悔室」「憤死」「人生ゲーム」の三作。
文字は大きい、ページ数は少ない、読み終えるのなどあっという間だ。
巻頭の「おとな」は、語り手が子供のころの近所の「おとな」の悪行を描いたもの。もしこれがまったくの創作であるなら、さすが、といってよい膂力。そうでなくて実話や誰かに聞いた話であったなら、それはその「おとな」たちの能天気さ加減をほめるべき。
「トイレの懺悔室」は町内の祭で「親父」顔をする人物が壊れていく話。勝手に壊れたとみるべきか、壊されたのか。いろいろわからないことがあって、それが気色悪さに結実している。
「憤死」は女の子どうしの腐れ縁に意地悪な目線を取り込んで描く。その意地悪さが楽しい、両者の間に安全な距離があるため、話が転がり出す前に終わってしまう。惜しい。
「人生ゲーム」は、一種の落とし噺。テーブルゲームの「人生ゲーム」を遊んだことのない者にはややわかりにくいし、少なくともとくに「怖い」話ではない。なぜこの設定でこの世の地獄を描かなかったのだろう。
これら、女学生臭さの抜けない文章を読んでいると、漠然とだが、「叱られたことがない」という印象を受ける。
もちろん、高名な文学賞を受賞して名声を得た代わり、山のような批評非難、なかには悪意のこもった揶揄中傷も受けてきただろうことは想像に難くない。しかしその一方、モノを書くにおいて本当に大切に思っている人物からぎりぎりのところまで詰められたことはないのではないか。
現に森見も、帯に解説に、この程度をベタ褒めする始末。それは子供扱いするようなもので、よくない。
なお、収録四作はいずれも誰かの呼びかけや告白が作品のエッセンスとなっている。
そういったフォームは意識されているようで、そのしたたかさは好もしい。
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