外に出て、自分を救いなさい 『営繕かるかや怪異譚』 小野不由美 / 角川書店
いろいろな意味で先の『セメント怪談稼業』とは対照的な怪談集。
時を経た家並み、和風の古屋に越してきた家族たちを妖異の障りが待つ。
依頼を受けて現れた営繕屋は心霊を「祓う」のではなく、家屋敷にちょっとした工夫、今風にいえばリフォームの手を加えることで怪異を静め、霊障を逸らす。
営繕屋は「若い」とあるのみで、どのような姿形、声をしているのか、逆光の中にいるようで明らかでない。ただ穏やかに仕事を施して去っていく。
一つひとつの怪異は住人の「妄想」でなく、歴然たる心霊現象として語られる。「実話」「実録」的な要素はほとんどなく、すべて作者のこしらえた架空の話なのは明らか。にもかかわらず、暗い家屋の影に見え隠れする怪異はまるでおののく家族や友人から直接聞いたばかりのように生々しく鳥肌が沸く。
六つの短篇は、各篇とも、日常にふときざす疑惑や歪みをきっかけに、困惑、動揺がどんどん高まり、最後、営繕屋による解決まで、テレビの水戸黄門か何かのようにきっちり同じ大きさ、同じかたちの枠の中に納まっている。そのくせ、その中にたゆたゆと揺れる妖異はあるいは腐臭を漂わせ、あるいは氷雨のようにむごく哀しい。
ストーリーを抜書きすれば、人間と怪奇が二世帯住宅的共存をはかれるよう、論理パズルに工夫をこらす、そんなふうに説明できなくもない。
その一方、作者の筆は、住人のみならず、現れるあやかしたち、「雨の鈴」に登場するモノのように人の生き死ににかかわるモノや、「潮満ちの井戸」のように営繕屋が現れなかったらどうなっていたかわからないようなモノさえ、いつくしんでやまない。
一冊の単行本として、振幅は大きいとは言いがたい。十年経って傑作として名が残るかどうかもわからない。
だが、どの一篇とて頑として揺るがない。プロの矜持のなす仕事である。
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