言い訳の多い工務店 『セメント怪談稼業』 松村新吉 / 角川書店 幽BOOKS
Twitterで話題になっていたので読んでみたのだが……少なくとも期待したほどではなかった。
従来の実話怪談が取材で得られた怪異を匿名性を保ったまま独立した短篇に仕立てるやり方なのに対し、この著者は普段は建設現場に従事しつつ、そこに持ち込まれた嫌な事件、その顛末を一種私小説ふうにまとめていく。
つかみは悪くない。実際、冒頭の数編、怪談作家でありながら心霊現象へのかかわりを必死で避ける腰の引け具合など、ちょっと新しい風を感じないでもなかった。
しかし、ともかくどの短篇も怪談としてみると怖くない。新味がない。
作中の記述によると、著者ら若手に対し、実話怪談に「幽霊」「猟奇」に次ぐ新しい第三の恐怖を創生せよと指揮したのは親分肌の平山夢明らしい。確かに、氾濫する実話怪談に、読むほうもかなり飽きてきてはいるのだ。しかし、怪異体験者側の「妄想」に着目した著者が新機軸に成功しているようにも思えない。
少なくとも平山が実話怪談に「猟奇」を持ち込んだときのあのひりひり、ぎりぎりした怖さ、面白さには比ぶべきもない。
私小説としては稚拙、「妄想」という観点からは中途半端、語り手のヘタレ具合にウケをとるギャグとしても今ひとつ……方向性はともかく、精度としてこれではいただけない。
もしかすると、この著者には、余裕があり過ぎるのかもしれない。
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