ファブリーズで除霊しましょう 『胸の火は消えず』 メイ・シンクレア、南條竹則 編訳 / 創元推理文庫
ブロンテ姉妹の研究や文芸作法における「意識の流れ」という言葉を初めて使ったことで知られるメイ・シンクレアの怪奇短篇集。
前後のイギリスの女流作家の生没年を少し調べてみた。
メアリー・シェリー(1797-1851)、『フランケンシュタイン』
シャーロット・ブロンテ(1816-1855)、『ジェーン・エア』
エミリー・ブロンテ(1818-1848)、『嵐が丘』
メイ・シンクレア(1863-1946)
ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)、『ダロウェイ夫人』『灯台へ』
キャサリン・マンスフィールド(1888-1923)、『園遊会』
アガサ・クリスティ(1890-1976)、『アクロイド殺し』
なるほど、作者がゴシックからモダニズム、フェミニズムへの橋渡しの時代に位置していたことがうかがえる。
本書の収録作においても、いかにもゴシックな轟々たる悪鬼怨霊の類より、霊が現れるにいたった人間の欲望、狂気のほうが主軸に描かれる(現在でいうところのストーカーや超能力者も登場する)。
往々にして女性は冷静かつ知性的、男は傲岸だがその実怯懦、小心者。
なかには霊界の住人と哲学的、神秘主義的な会話を交わすだけの作品もあれば、死んだ妻とことをなすお話もあり(たいそう情熱的なものらしい)、それら端境期のさまざまな創意のバリエーションを楽しむべき集成のようにも思われる。
しかし。そこまで理屈で俯瞰して、なお一種なんともいえない、ガラスを金属でこすった音のあの生理的嫌悪感が残る。
本書に描かれる生者、死者、とくに女性の多くはナイーブで純朴だ。
それでもかすかに腐臭はする。どこかに、腐肉がぽたりと落ちているのだ。
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