『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』 工藤美代子 / 中公文庫
前回は形式というか文体でおちゃらけてしまったため、そのあたりきちんと書くことができなかったが(なにしろ「人」や「怖い」はひらがな、「出版社」や「心身障害者」という言葉も使えない)、正直言うと同じ著者の旧作『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』(中公文庫、『日々是怪談』改題)のほうが1冊の本として格段に面白い。怪談として怖いかといえばそれほどでもないが、無頓着に火中の栗を拾う著者の呑気さがたまらないのだ。
以下、ややこしいので旧作の中公文庫版『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』を『なぜノン』、新作の角川文庫版『もしもノンフィクション作家がお化けと出会ったら』を『もしノン』と記すことにしよう、、、って、わかりやすくもなんともないわーっ!
……失礼、続けよう。ともかく、一読明らかなことに旧作『なぜノン』のほうが後発『もしノン』より話がバラエティに富んでいる。お化けの種類も豊富。しかもバンバンお化けのほうからやってくる。展開も右に左に跳ね回る。
というのも、『もしノン』は著者の昔の境遇を語ることに比重が置かれており、その折々に見えたもの、聞こえたものを「あれはきっとお化け」……と、そんな描き方中心なのだが、『なぜノン』では、著者がどこそこに出かけたらお化けが! 買い物をすればお化けが! 誰それに会えばお化けが! つまりは著者もお化けも出るです出るでん、いずれも秋の柿の実に能動的なのだ。しかも、出てくるお化けが人形やら生霊やら、ストーカーやら、見えるだけなくそれなりにしっかり実害を及ぼす。本の中ならともかく、日常生活では絶対にお会いしたくない方々ばかりである。
ちなみに角川文庫版『もしノン』には「三島由紀夫の首」という短編が収録されており、帯にもでかでかと紹介されているのだが、実は中公文庫版『なぜノン』ですでに「三島の首」という短編が書かれており、同じお化けを扱って構成、ディテールともにそちらのほうがずいぶんと濃密で怖い。
ただ、旧作の時点では三島の首を坊さんにすげてもらう作家の夫人は「A先生の奥様」と匿名だったのに対し、『もしノン』ではその作家の名まで明らかにされている、そういう違いはある。それなりに衝撃的ではある。
いずれにせよ表紙もよく見れば存外に怪しい『なぜノン』、巻末の岩井志麻子と著者の対談(並みの怪談よりよほど怖い)含め、いろいろ必読。
ただし、人形と中国娘の掛け軸の買い物には要注意だ。
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