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2014/09/11

脳内楽園 『楽園のカンヴァス』 原田マハ / 新潮文庫

Photo不愉快な本である。つまらないのではない。不愉快、なのだ。

何が問題なのか。駆け足で見ていこう。
(一部、ストーリーの先のほうに触れる可能性がある。未読の方はご注意願いたい。)

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンと新進気鋭のルソー研究家、早川織絵の2人は、ある蒐集家の招きを受け、ルソーの「夢」に酷似した絵画作品の真贋を鑑定することになる。手がかりはたった1冊の古書。それを7日間、交互に読んで判定せよというのだ……。

この時点で、どう考えてもおかしい。茶器の真贋を箱書きで鑑定させるようなものだ。

そもそも、なぜそんな手枷足枷が必要なのか。
真贋を確認したいならある程度自由に調べさせればよいし、誰がその作品をより深く理解するかを見定めたいなら(人選含め)このような曖昧な手続きを選ぶべきではない。ネタバレになるため詳細は書かないが、依頼主の目的が達成できたのはまったくのところラッキーな偶然の積み重ねに過ぎない。封筒の扱い一つ、待ち合わせの仕方一つでことの顛末はすべて破綻に向かっただろう。

鑑定を引き受けるほうも、もう少し誠実に作品に向かうべきだろう。出所のわからない古書だけを素材にルソーについて議論する……ゲームとしては悪くない。しかし、それと絵画の鑑定は別の話だ。依頼人に制限されたから? 成功報酬にひかれたから? それで解答を出す気になるようなら、もはや真摯な研究者とはいえまい。
(その意味も含め、実際のところ2人ともおよそ魅力的とは言い難い。)

X線調査が最後までスルーされるのも、単にストーリーテラー側の都合でしかない。
本作に描かれた絵画の鑑定作業は、資料とされる古書の真贋確認から始まって、何一つ地についていない。

結局、依頼する側もされる側も、ルソーに対する情熱──というのは言葉じりだけで、作品に対しては最初から最後までいい加減かつ無責任なのである。
そんな人物のうち1人がのちにキュレーターとして出世できるとはなんと都合のよい世界だろう。

もう一つ、どうしても気になることがある。

作者が必要以上に繰り返しルソーを「日曜画家」と蔑む理由がわからない。
記憶する限りでは、ルソーは1960年代中ごろにはすでにレオナルドやマネ、ゴッホらと並んで古今東西の名画50点に選ばれるほど高い評価を獲得していた。この『楽園のガンヴァス』の舞台となる1980年代にここまで世評が低かったとは考えられない。

つまるところ本書の作者は、話を面白くするためにルソーを貶め、絵画の鑑定行為を軽んじているのだ。
これが不愉快でなくて、何だ。

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