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2014/09/15

潰してください 『運命の女の子』 ヤマシタトモコ / 講談社 アフタヌーンKC

Photo帯の惹句に「サスペンス、ラブストーリー、ファンタジー。味わいの異なる長編3編を収録した作品集」とあるのだが、どれが「サスペンス」でどれが「ラブストーリー」、「ファンタジー」なのかわからない。
3作とも「サスペンス」には見える。いずれも「ラブストーリー」にも「ファンタジー」にも見えない。
むしろ「ホラー」。とくに(おそらく)男には怖い。

わかりやすく怖いのは巻頭の「無敵」で、これは何人も人を殺してきた(と思われる)16歳の少女が取調室で女性担当官を圧倒するお話。担当官が初対面からいきり立ってしまうのはどうかと思う。途中からはそのおびえにも理解が及ぶ。なるほど少女は無敵だ。

ヤマシタトモコの短編はそんなふうに異常なシチュエーションで読み手を圧倒する。
尋常ならざるシチュエーションといえばアフタヌーン誌の得意とするところで、このブログで取り上げてきた黒田硫黄漆原友紀岩明均市川春子庄司創田中雄一らを一望するだけでお婆様から「地脈が通じておるわい」の声がもれる。
ヤマシタトモコの異彩もそれらの作家にひけをとらない。この『運命の女の子』、あるいは初期作品集『サタニック・スイート』など読んでも同じことを思う。絵は巧いしセリフ回しも軽妙、その冴えたテクニックをもって予想外の展開で読み手を引きずり回す。粉砕力でいえば他の作家を軽々と上回る。

だが、打ち倒されながら、まだ何か足りないものを感じる。なぜだろう。
主人公だけでなく相手や周囲まで日常的でないせいか。
たとえば黒田硫黄や岩明均なら、固くもつれたモノを手渡され、それを解きほぐす仕事が委ねられる。市川春子には物凄い穴がぽっかり空いていて読み手の心臓はそこを埋め直すため触手を伸ばさざるを得ない。そんなことはただのヒトにはできない。つまりこれらの作家は読み手がただのヒトであり続けることを断固許さない。

ヤマシタトモコの短編は読み手を打ち倒すばかりで、読み手に何かを委ねるにはいたっていない。そんな気もする。

ただ、この作者がそういった域に達することを読み手として欲しているかというと、そこはよくわからない。
表紙絵でも明らかな、こんな目力のある登場人物に何かを委ねられて、それで平気なほど若くはないのだ。

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