ばさっ 『鬼談百景』 小野不由美 / メディアファクトリー
この夏も書店文庫棚には実話怪談の新刊が並び、バブルは続いている。
ただ、何冊か買って読んだが、さほど印象には残っていない。刺激に、慣れてしまったのだ。
「金縛りは怪奇体験としては、ありふれているといってしまえば語弊はあるものの、多くの人がよく似た話を語るし、典型的なパターンだなとの感想を持ってしまう場合も多い」(岩井志麻子『現代百物語 彼岸』第三十三話 襲っている方が被害者)
金縛りに限ったことではないが、こういったダレは、実話怪談好きなら誰しも感じるところだろう。
その結果、作者、編者の側からすると、
「取材の際にもっとも耳にするのは『眼を覚ますと金縛りに遭っていて、見知らぬ老婆が枕元にいた』といったたぐいの旧態依然とした体験談である。体験者からすれば、それだけでもじゅうぶん怖いはずで、しばらくはひとりで寝るのをためらうだろう。といって、それを聞かされる側は退屈である」(福澤徹三『忌談3』まえがき)
と、ネタ集めに苦労することになる。
ところが、2年前の本ではあるが『鬼談百景』において小野不由美はそのあたりには頓着しない。金縛りオッケー、コックリさんウェルカムで全99話を語り抜ける。知人が亡くなった夜の虫の知らせ。キャンプのテントの外、掃くような音。
それが、案外、怖い。
思うに、実話怪談の蒐集家が怖さを追って新しい刺激を求める、それ自体は別に間違いではないのだが、忘れてはいけない、「金縛りは怖い」、のだ。子供や猫が何もない空間を見る話は怖いのだ。
『鬼談百景』のために怪異を聞き集めているうちに作者がある種の怪異の共通項に気がつき、それを深掘りしていったのが『残穢』。
『鬼談百景』が静かなとろこで一人で読んで怖いなら、あちらはにぎやかなところで読んでも怖い。
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