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2014年8月の4件の記事

2014/08/20

『白異本』 外薗昌也 / 廣済堂モノノケ文庫

Photo高校生が電車のドアのところにたむろって、奇声をあげているような本。

著者は自身を〈心霊否定派〉と言い放ち、「幽霊、妖怪、神仏の類いは一ミリも信じていない」と断言する。しかし、その一方でやれ怪談本にとりかかるとパソコンが固まった! 家族が肩こりになった! 担当編集者がまた体調不良に! と、何かにつけて「怪異だ、怪異だ」と騒ぎたてる。普通はそういう輩を〈心霊肯定派〉というのではなかったか。

このシリーズは『赤異本』『黒異本』に続いて今回『白異本』なのだが、赤不浄、黒不浄、白不浄という言葉があり、それぞれ経血、死、出産を神様が嫌うという意味があると知ればそれを偶然だ! さらに堕胎にかかわる怪異譚が届けば「白異本に白不浄の話が届いた!」と仰天する。とはいえそこまで驚かなくても、血、死、水子は古くから怪談の定番で、実話怪談本ならかなりの高率で出てくるものだ。

つまるところ、本書ではかなりのボリュームが、著者本人の「この話怖い! この本怖い!」という自画自賛で埋まっている。TVのワイドショーでひな壇のタレントが「このギャグ面白い! この番組面白い!」とはしゃいでいるのに近い。あれは見苦しい。
(既刊本の感想を綴ったネット上の書き込みの羅列で埋められた章さえある。Twitterからの無断転載は一般に禁じられており(出版物が発行延期となった例もある)、掲載にあたって発言者の許可は得ているのだろうが、個々のtweetにアカウントが掲載されていないのには違和感を感じる。編集マナーとして、少なくともアカウントと日付は掲載すべきと思うのだが……。)

なお、著者の名誉のために付け加えておくなら、既刊の『赤異本』『黒異本』は近年の実話怪談モノとしては新味かつかなり面白いほうだといえる。今回はほかの本で既出の題材もあったりで、要はネタ切れなのかもしれない。

2014/08/18

ご安全に! 『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(1巻) 竜田一人 / 講談社 モーニングKC

Photo福島第一原発の現実……といった類の観点からはすでにあちこちで称賛されているので、ここで今さらどうこう書いてもしょうがない。

ちょっと不思議に感じるのは、この作品に「驚く」方々は、工事の現場をご存知ないのだろうか。
原発事故現場に限らず、あらゆる工事オペレーションにはそれぞれ困難が伴い、各業者は発注元から発注先、孫請けひ孫請けにいたるまでその困難に対応しようと工夫を重ねる(もちろんできるだけ金は使わない)。そういう構図を理解できていれば、この作品に描かれているこまごまには基本的に不思議はない。「驚く」ほうが想像力不足なのである。

むしろ不思議に思えたのは作者のことだ。
カバーには「震災後、当時働いていた会社を辞し被災地のためになる仕事に就くことを決意する。(中略)紆余曲折を経て福島第一原発で働くことに」とあり、さらに休憩所のサーベイ業務から希望して線量の高い現場に移る。
作中にも「俺の中には最前線への思いがふくらんでいた」等々とあるのだが、彼をそこまで駆り立てていったものが何であったのかは、今ひとつ明らかでない。今後連載が続くにつれ、詳らかにされていくのだろうか。

また、作者は「売れない漫画家」だったとのことだが、よほどの素地があったのか、いきなりの連載でこの画力には驚く。
作業員として働いている間、いちいち状況や器具、装備類など撮影などできたとは思えず、それでこの細密な描写。人物についても、(マンガ的カッコよさやパースの正確さはさておき)働く男たちのそれぞれ朴訥、豪胆、狡猾な表情を描き分ける力は大変なものだ。

Photo_2ところでこのタッチ、どこかで見たような……とずっと気になっているのだが、どうしても思い出せない。麻雀漫画誌あたりか?

右は土山しげる『野武士のグルメ』(幻冬舎)の1カット。鼻や口の描き方などはまったく違うのだが、眉や目の周辺、また細かい描写へのこだわり、女性がほとんど登場しないなど類似点も多く、竜田一人も同じ系譜から出てきたのではないかと思われてならない。どうだろう。

2014/08/11

百年文庫29 『湖』 小沼 丹 ほか / ポプラ社

Photo(第三の新人の一人)小沼丹の短篇小説には、深夜の飲み歩きを描いたもの、学校を舞台にしたもの、ロンドン赴任時の出来事、自宅に起こるあれこれを描いたものなど、いくつかバリエーションがあるが、そのうち、海や湖の水辺を舞台にした作品がわずかに薄気味悪さをくゆらせて面白い。
およそ幻想だ怪奇だというほどではないが、少し現実味を欠いた人物やすでに亡くなった人物が描かれて、ユーモアの中にもどこか奇妙で喉の奥に残る甘苦い読み応えがある。

百年文庫の『湖』に収録された「白孔雀のいるホテル」は、大学生の「僕」がひと夏湖畔の宿屋の管理人を勤め、その間のいろいろ頓狂な事件を描いた、どちらかといえばユーモア嗜好の強い作品。芥川賞候補となったそうだが、逆にこの作品など読むことで、この作者が芥川賞とは縁のない作家だったことがうかがえる。その前に候補となった「村のエトランジェ」などは主人公の少年の疑惑や緊張が瑞々しくみなぎり、いかにも「芥川賞候補!」といった感じだが、いかんせんそちらは振り返れば若書きの印象が否めない。
小沼丹の魅力は、主人公の年齢によらず、生々しい青春の痛みなどとは別視野の、悠々、泰然としたとぼけた語り口にあるように思う。自分探しを旨とする芥川賞とは噛み合わないはずである。

『湖』には「白孔雀のいるホテル」のほか、青春への哀悼を描かせればこの人、のフィッツジェラルド「冬の夢」、探偵小説の体裁はとるものの、年齢の離れた夫婦の齟齬を苦く描いた木々高太郎「新月」が収録されている。いずれも再読に足る含み豊かな作品で、百年文庫中でもお奨めに足る一冊と紹介する次第。

2014/08/04

ばさっ 『鬼談百景』 小野不由美 / メディアファクトリー

Photoこの夏も書店文庫棚には実話怪談の新刊が並び、バブルは続いている。
ただ、何冊か買って読んだが、さほど印象には残っていない。刺激に、慣れてしまったのだ。

「金縛りは怪奇体験としては、ありふれているといってしまえば語弊はあるものの、多くの人がよく似た話を語るし、典型的なパターンだなとの感想を持ってしまう場合も多い」(岩井志麻子『現代百物語 彼岸』第三十三話 襲っている方が被害者)

金縛りに限ったことではないが、こういったダレは、実話怪談好きなら誰しも感じるところだろう。
その結果、作者、編者の側からすると、

「取材の際にもっとも耳にするのは『眼を覚ますと金縛りに遭っていて、見知らぬ老婆が枕元にいた』といったたぐいの旧態依然とした体験談である。体験者からすれば、それだけでもじゅうぶん怖いはずで、しばらくはひとりで寝るのをためらうだろう。といって、それを聞かされる側は退屈である」(福澤徹三『忌談3』まえがき)

と、ネタ集めに苦労することになる。

ところが、2年前の本ではあるが『鬼談百景』において小野不由美はそのあたりには頓着しない。金縛りオッケー、コックリさんウェルカムで全99話を語り抜ける。知人が亡くなった夜の虫の知らせ。キャンプのテントの外、掃くような音。

それが、案外、怖い。

思うに、実話怪談の蒐集家が怖さを追って新しい刺激を求める、それ自体は別に間違いではないのだが、忘れてはいけない、「金縛りは怖い」、のだ。子供や猫が何もない空間を見る話は怖いのだ。

『鬼談百景』のために怪異を聞き集めているうちに作者がある種の怪異の共通項に気がつき、それを深掘りしていったのが『残穢』。
『鬼談百景』が静かなとろこで一人で読んで怖いなら、あちらはにぎやかなところで読んでも怖い。

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