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2014/08/11

百年文庫29 『湖』 小沼 丹 ほか / ポプラ社

Photo(第三の新人の一人)小沼丹の短篇小説には、深夜の飲み歩きを描いたもの、学校を舞台にしたもの、ロンドン赴任時の出来事、自宅に起こるあれこれを描いたものなど、いくつかバリエーションがあるが、そのうち、海や湖の水辺を舞台にした作品がわずかに薄気味悪さをくゆらせて面白い。
およそ幻想だ怪奇だというほどではないが、少し現実味を欠いた人物やすでに亡くなった人物が描かれて、ユーモアの中にもどこか奇妙で喉の奥に残る甘苦い読み応えがある。

百年文庫の『湖』に収録された「白孔雀のいるホテル」は、大学生の「僕」がひと夏湖畔の宿屋の管理人を勤め、その間のいろいろ頓狂な事件を描いた、どちらかといえばユーモア嗜好の強い作品。芥川賞候補となったそうだが、逆にこの作品など読むことで、この作者が芥川賞とは縁のない作家だったことがうかがえる。その前に候補となった「村のエトランジェ」などは主人公の少年の疑惑や緊張が瑞々しくみなぎり、いかにも「芥川賞候補!」といった感じだが、いかんせんそちらは振り返れば若書きの印象が否めない。
小沼丹の魅力は、主人公の年齢によらず、生々しい青春の痛みなどとは別視野の、悠々、泰然としたとぼけた語り口にあるように思う。自分探しを旨とする芥川賞とは噛み合わないはずである。

『湖』には「白孔雀のいるホテル」のほか、青春への哀悼を描かせればこの人、のフィッツジェラルド「冬の夢」、探偵小説の体裁はとるものの、年齢の離れた夫婦の齟齬を苦く描いた木々高太郎「新月」が収録されている。いずれも再読に足る含み豊かな作品で、百年文庫中でもお奨めに足る一冊と紹介する次第。

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