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2014/07/06

雑感 『短篇ベストコレクション 現代の小説2014』 日本文藝家協会 編 / 徳間文庫

2014毎年発売を楽しみに待っているアンソロジー。
たとえば、養蚕業を営む主家に奉公に出た少年と、瞽女(ごぜ)の少女のたまゆらの情交──などといった作品(「泣き虫の鈴」)と出会う機会はなかなかないので。

今回収録の14篇は以下のとおり。

「獅子吼(ししく)」浅田次郎
戦時中の動物園の獅子と、兵卒たちのドラマ。この作者が巧いのはわかっているが、初手から泣かせるつもりが鼻についてほんの少し煩わしい。また、よくわからないが、誰もが黙って耐える話に「獅子吼」はないんじゃないか。
「線路の国のアリス」有栖川有栖
鉄道マニアが「不思議の国のアリス」をいじり倒すとどうなるか。「アリス」を(かなり忠実に)鉄道用語や駅名で置き換えたダジャレの卵嚢となっていて、こまごまは笑えるものの、それだけでは鉄ちゃんならざる者にはつらい。もう一工夫、ミステリ作家らしく全体の構成が伏線~犯人当てとでもなっていたら……いやもちろんこれはないものねだり。
「大金」大沢在昌
『新宿鮫』の作者も、枯れた。
「太陽は気を失う」乙川優三郎
最初の数ページでは見当もつかないことに、3.11、東日本大震災を描いた作品である。ストーリーとしてはいささかバランスに欠けようが、地震と津波と原発事故に日常が分断され、郷里の家が失われて、バランスもないだろう。いたずらに絶望、激情に走るでもなし、これはこれでリアリティというものか。
「御機送る、かなもり堂」小川一水
読了一時、乾いた寂寥感が降る。デジタル時代の葬祭という点では、以前紹介したかまたきみこ『てんから』収録の「エンセル」を思い起こす。人間型ロボットの弔いという「かなもり堂」のビジネスが現実のものとなるのは、そう遠い先の話ではないに違いない。
「水を飲まない捕虜」古処誠二
何を描いたかはわからないでもないが、何のために描いたかとなるとよくわからない、(おそらく)正統派の戦争小説。
「影のない街」桜木紫乃
ニーズはあるのだろうが、いろいろ半端に思われて苦手な作風。
「機龍警察 沙弥」月村了衛
「機龍警察」シリーズは警視庁特捜部に採用された近接戦闘兵器体系・機甲兵装をめぐるサスペンスを描いた近未来SF、とのこと。早い話、『パトレイバー』か。ところがこの「機龍警察 沙弥」はSF的要素のまったくない、不良少年が更生するきっかけとなった事件を描いた巧篇。
「廃園の昼餐」西崎憲
今回もっとも心を揺すぶられた一篇。幻想「的」、でなく、理性によって制御、構築された「幻想小説」。一方で、語り手の母親、百音の描写をはじめとする、もちもちっとした桃色の、奇妙に身体的な、確かなテイストが独特。どうすればこのような奇想を文字に落とすことができるのか。まれにみる「羨ましい」作品。
「無用の人」原田マハ
最後、できすぎ。そういう御仁は晩節もはずすもんだよ、と苦笑いしてしまうのはこちらの年のせいか。
「インタヴュー」万城目学
あの作品をこの角度でリメイク。作者のすまし顔が見える。
「かぎ括弧のようなもの」宮内悠介
表題のものに人生を狂わされていく「おれ」の物語。真ん中にきわめて観念的なものを置きながら、その周辺はすべて手応えのあるもので埋められている。「おれ」の絶望も後悔も、かぎ括弧のように固い。かぎ括弧に刻まれる。
「ソラ」結城充考
これもSFで、数えてみれば収録作中SF誌掲載作の打率が高い。とはいえサイボーグが日常生活に現れる本作もどちらかといえば現在十分起こり得るトラブルと、きりりとした人間関係を描く。
「泣き虫(みす)の鈴」柚月裕子
前述。

ところで、重箱の隅つつきではあるが、解説の文芸評論家 清原康正氏の言葉遣いが少し気になる。
たとえば、「アベノミクスとやらの景気回復」。揶揄を込めたつもりかもしれないが、己がよく知らないものをこきおろす文脈はおよそ論理的とは言いかねる。その数ページ後、「廃園の昼餐」の紹介に、やはり、といった感じで登場する「シュールなタッチ」。説明のつかないものをなんでも「シュール」で括るのは楽かもしれないが、少なくとも「意識というものがどうやっておれのところにきたのかは分からない。だがおれは気づいたときには全知だった」で書き起こされる作品がシュルレアリスムと無縁なことは言うまでもない。

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