さらに最終巻を読んでみた 『AZUMI -あずみ-』(18巻) 小山ゆう / 小学館ビッグコミックス
第1部『あずみ』が48冊、第2部『AZUMI』が18冊。1994年から合わせて20年続いた大作だ。
ただし、「あずみ」と呼ばれる女暗殺剣士を主人公とはするものの、第1部は江戸幕府開闢当時、第2部は幕末とまったく異なる時代設定で、2人の「あずみ」の関係もとくに明らかにはされていない。
また、第2部にはキーパーソンの一人として坂本竜馬が登場するが、この竜馬は同じ作者による『おーい!竜馬』(原作:武田鉄矢)とつながっているとのこと。『AZUMI』最終巻では竜馬暗殺を強要されたあずみの苦悩とその解放が描かれる。
──と、あらましを並べてみたものの、小山ゆうについてはどう書けばよいのか、迷う。
付き合いは長い。『おれは直角』『がんばれ元気』『スプリンター』など、いずれもリアルタイムに読んできた。少年ビッグコミック掲載のSF『愛がゆく』は掲載誌がマイナーだったせいかあまり評を見かけないが、インパクトの凄まじさではコミック史上類を見ない(あまりのインパクトに読み返すのがつらい。つらすぎて手元に置いておけない)。
それなのに、どうも同時代的フィット感がない。どこか、痛いイメージがぬぐえない。
剣劇たる『あずみ』にしても、少なくともチャンバラだの勧善懲悪という言葉では説明がつかない。
剣士たちは敵方のみならず、徒党を組む味方まで苛烈な死闘の末に討ち、討たれる。殺戮のあみだくじである。斬撃は相手の腕を切り落とし、腸を撒く。
たとえば、女剣士に剣を持たせることを性的なリビドーの発現と読む見方もある、らしい。
寝食を共にし、世界(幕府)へのかかわり方を一にした者同士が最終的には切り合って、それを愛のよう、と評することもできなくはない。が、あずみ本人は性的というにはあまりに端正淡白だし、そもそもそう分析したところでその先どうしようもない(とはいえ、切られて死を自覚した瞬間の男たちの涙目、開いた口、あの小山ゆう独特の情けない表情は、射精を迎えた瞬間の男の顔と見なせなくもない)。
いずれにせよ、死はエロスの──とかいうのはバタイユ先生の領域で、よくわからないのでこれ以上つっこまない、つっこめない(おっと表現が性的だ)。
要は、性的だろうが政治的だろうが、小山ゆうの登場人物がなぜここまで頑張って切り合わねばならないのか、そこがわからない。登場人物の悲劇を読めば確かに心は動く。だが、揺さぶられるのとどこかに連れて行かれるのとは別の話だ。『あずみ』の美しい手足は、敵手の腕や臓腑をかっさばくばかりで、どこかに連れて行ってくれるわけではない。
ところで今回久しぶりに小山ゆうのアクションシーンを見て、その剣さばきを相変わらず「面」だな、と思った。あずみの剣撃は超高速だが、手首を返さないので刀の軌跡が四角い布のような面となる。これは『おれは直角』の剣の軌道や『がんばれ元気』のアッパーストレートと同じ。
これほどの直線好きが、この嗜虐的なストーリー。やはり作家とは理解を超絶した存在なのである。
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