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2014/05/12

俺がこれで終わりにしてやる 『満天の星と青い空』 西森博之 / 小学館

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少年サンデーで『今日から俺は!!』『天使な小生意気』『お茶にごす。』『鋼鉄の華っ柱』など、暴力とエスプリにあふれるとんがった(髪の毛の人物が活躍する)作品を発表し続けてきた西森博之が、実は小説を書いていた。

ふめい【不明】
②才知の足りないこと。事理に暗いこと。識見のないこと。「おのが―を恥じる」

広辞苑を引いて猿より深く反省する。事理に暗い。識見がない。くくくぅ。

反省はさておき、取り急ぎ日本橋丸善でまず単行本の『満天の星と青い空』を買ってみた。
読んでみた。
──素晴らしい。

隕石に付着して地球に到達した微生物のため、地球上の金属は急速に腐食され、世界の文明は数日で崩壊してしまった。修学旅行で京都にきていた高校生たちは、東京を目指して徒歩の旅に出る。
主人公の高校生、中澤真吾は、「目に輝きはない。真っ黒なのだ。暗い虚ろな眼差し、しかし何か強い迫力がある」、という氷の魂と圧倒的な戦闘力をもつバーサーカー。
そんな中澤が、クラスメートの“小動物”水上鈴音の真っ直ぐな心根にあおられて少しずつ変わっていく。しかし、彼らの背後には凶悪な暴力の手が迫っていた。

文体は箇条書きで荒い。サバイバルな設定はよく言えば全盛期SFへのリスペクト、悪くいえばありきたり。構成も慣れてない印象で、中澤のツレの横山が(おそらく頭脳戦で)敵のザコキャラを片付ける場面は紙数の都合で切り落とされたに違いない。質量保存の法則は。鉄が喰われるなら赤血球中のヘモグロビンは。
……などなど、気になる点をあげれていけばキリがない。だが、読後感はとてもいい。

思わず「夏休み小説」という言葉が転がり出てきた。
山中恒『ぼくがぼくであること』など、少年を主人公にした作品にまま見られる、主人公が一定期間日常から切り離され、そこで見知らぬ人々と出会い、戦い、ほのかな恋慕を覚え、成長していく物語。

西森博之は『満天の星と青い空』を書いた後、本職のマンガ業に戻り、あの快作『お茶にごす。』を発表する。『お茶にごす。』の悪魔(デビル)まークンやその僚友山田、勝気な夏帆らのキャラ、それぞれの関係や掛け合いに、本作のシェイプアップされた姿が追える。だが、油まみれのエンジンやシャーシが剥き出しになった本作の魅力もまた、捨てがたい。

ところで、『満点の星と青い空』の美しいラストシーンでは、Janis Ianの“You Are Love”が轟々と鳴り響く。わかる人だけわかってください。

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