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2014/05/18

わたしはこの世界から消えるはず 『俺の心臓は彼女にしか撃ち抜けない』 西森博之 / 小学館文庫

Photo この表紙、このタイトル。加えて主人公の高校生・杵屋孝志は中度のアニオタ、妹属性。ヒロインは「この世に存在してはいけないほど」美しい巫女・霞。となればこれは天地神明、アキバの神に誓ってキャラものライトノベルに違いない。
だが、マンガ家西森博之による小説第二弾は、読み進める過程においておよそライトではない。
なにやら途方もない喪失感、寂寥感にあふれているのだ。

──アニオタを公言して穏やかな日々を送っていた孝志。彼は始まってたった8ページには、ふと立ち寄った神社で雷に打たれて意識を失ってしまう。目覚めた孝志に超絶美少女の巫女・霞が告げるには、孝志は神に選ばれて無敵の超人となったというのだ。ところが孝志は世界を手に入れることなどより身の丈に合った幸福にしか興味を示さない。妹役を演じる霞との静かで幸福な日々。だが、神に選ばれたのは孝志だけではなかった……。

中盤からは俄然敵キャラの黒さが際立ち、西森らしい入り組んだバイオレンスシーンも描かれる。

作者はオーソドックスなSFの愛読者だったのか、全体の構図はいかにも星新一や小松左京のショートショートにありそうなもの。
文章は前作『満天の星と青い空』に比べ格段に手慣れており、また大小のイベントをテンポよく用意して飽きさせない。さすがに週間連載で鍛えられた印象だ。

それでも、やはりマンガでは書けないものを、という意思があったのか、繰り返すが全編を覆うのは尋常ならざる喪失感、寂寥感である。霞は始まって21ページめですでに「少しだけ寂しげに見え」と喪われる者として暗示され、繰り返し自らが架空の存在であると訴える。

敵は狡猾だが、大切なものを喪いたくないと思い立ったオタクはヘタレに見えて意外や強い。いや、守るべきものを持たない者が強いはずはない。オタクこそは周囲にとらわれず自らが守りたいものを真っ直ぐに守る強者なのだ。

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