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2014/05/03

なおも読む 『鼠、江戸を疾る』(以下現在まで7巻) 赤川次郎 / 角川文庫

Photo 赤川次郎のミステリと言えば、(失礼ながら)堅牢な構成やトリックの巧みより、会話や改行が多く、あっという間に読めてしまう印象が強い。
もちろん、すらすら読めるのは立派な才能であり、ひとたび体が赤川次郎の軽さ、ゆるいユーモアに馴染んでしまうと、二度とほかの作家に戻れない、という声も耳にする。

……と思いきや、ここにきて、鼠小僧。
赤川次郎が時代劇? といぶかったら、やはり初めてらしい。五百数十冊めで初めての時代劇。
とりあえず『鼠、江戸を疾る』から読んでみた。

実に面白い。

 四尺幅の廊下を、鳥の羽根が撫でるように軽々と進んで来た足が、ピタリと止った。

この書き起こしから、素晴らしい。「四尺幅」に現代劇ではないぞとの標が見える。おそらく朝夕に下女の雑巾で磨かれた廊下、そこをひたひた歩む賊の足は「鳥の羽根が撫でるように」軽い。その鋭い耳がそば立つのだ。事が、起こる──。

江戸を舞台にした時代劇が、指紋や物証にこだわらない赤川テイストに合っているのかもしれない。
一篇一篇、権力をこらしめ、弱きを助く〈甘酒屋〉次郎吉こと鼠小僧、その妹で小太刀の名人、小袖、この二人の活躍がすっきり描かれる。いずれも短い中に事件は込み入ってほろ苦く、大人の味わいである。

また、この手のシリーズ作品では回を追うごとに主人公周辺に馴染みの脇役が膨張していくことが多いが、本作には鼠を執拗に追う銭形だのライバル五右衛門だの大八車で待つ次元だの、そういった者は出てこない。三冊目でようやく常連が二人増えて、それ以後も増えない。つまりは抑制が効いているのである。

さすがに六、七冊めとなると場面描写など慣れた読み手に期待する一種の手抜きか、悪人が抜刀したとたん小太刀を受けて(つまり小袖に倒されて)呻いている、そんな展開もなくはない。
それでも全体の艶と古色は実にいい感じで、これはひょっとすると赤川次郎の平成の代表作の一つになるかもしれない。

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