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2014年4月の4件の記事

2014/04/26

続けて読んでみる 『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』 大沼紀子 / ポプラ文庫

Photo_2 さほど大きな期待は抱いてなかったのだが、これはアタリ。読むほどに、楽しい。

都内(三軒茶屋)、午後11時から午前5時までという深夜営業のパン屋を舞台に、妻を亡くしたオーナー(兼パン職人見習い)、その妻に横恋慕していたイケメンの若いパン職人、そのパン屋に居候することになった不機嫌な女子高生、そしてさまざまな影を背負う客たちがあやなす人間関係。

こちらもタイトルからなんとなく「癒し系」、「ハートウォーム」などと予測してしまったが──とんでもない。いじめ、親の不倫、ストーカー、ネグレクト、万引き、ホームレスのニューハーフ、などなど、これでもかの苦い設定が立ち並ぶ。

にもかかわらず各編の読み口が爽快なのは、作者がそれぞれのキャラクターをちゃんと描こうとしてくれているため。
それぞれのキャラクターに二重三重の足枷をはめた上で、その足枷を外すのではなく、ほかの登場人物と静かにともに歩いていく結末が選択される。
痛快無比、快刀乱麻なカタルシスなど求めようもないが、その代わり、実直な読み応えが濁ったものを流す。

ちなみに「午前0時のレシピ」に次いで「午前1時の恋泥棒」「午前2時の転校生」「午前3時の眠り姫」が既刊。朝になったらおしまいだろうか。

2014/04/25

これも読んでみた 『食堂かたつむり』 小川 糸 / ポプラ文庫

Photo こちらもベストセラー。
で、は、あるのだが──いろいろ、わからない。

パステルカラーの表紙や、一日一組だけ客を招く食堂という設定から、いわゆる「癒し系」、「ハートウォーム」のイメージが思い浮かぶ。
しかし実のところ主人公をめぐる人間関係は、およそ穏やかでない。黙って家財道具と貯金を持ち逃げするインド人の恋人(主人公はそのショックで声を失う)、長年いがみ合ってきた母親。郷里を牛耳る母親の愛人。
おまけに物語後半には、その母親さえ余命半年だと知らされる。
ここまで「盛る」必要があっただろうか?

よくわからないもう一つの理由は、書かれていないところに想像、説明が及ばないことだ。

インド人の恋人はなぜ主人公を捨てたのか。
かつて飛び出してきた郷里に向かう主人公。それはなぜか。
母親のヘソクリを盗もうとする主人公。それを親への甘えとは感じないのか。
主人公が母親に反感をもつのはともかく、なぜ母親までが主人公に冷たいのか。
母親はなぜ、よりにもよってペットとしてブタを飼っていたのか。
客に応じて山海の珍味でもてなす料理店が、なぜ一日一組で採算がとれるのか。
特別に修行をつんだとも思われない主人公が、なぜ和洋中オールマイティな料理の達人なのか。
一日一組、予約制の料理店を「食堂」と名づけるセンスは妥当なのか。
同じく「かたつむり」と名づけるセンスは妥当なのか。
後半、信じがたい食材が描かれるが、なぜ主人公は平気なのか。
……

つまるところ、章ごとに悲しい、嬉しい、美味しい、のイベントがそれなりに濃く描かれてはいるのだが、ちょっと引いて見るとただばらばらと置いてある印象。

ストーリーや人間関係における有機的な結びつきより、単に個々のイベントごとの「刺激」(あえて言えば「癒し」も刺激の一種)の羅列として小説を組み立てる作家がときどきいるが(テレビ関係の作家に多いようだ)、この作品もそんな感じだ。
ダシの効いてないうどんのツユに、醤油や砂糖や唐辛子をぶっかけていく、とでもいうか。
それを平気で「甘くて美味しい」「辛くて美味しい」と喜ぶ読者が少なからずいるようで、それはそれで気持ちが悪い。

2014/04/21

読んでみた 『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』 岡崎琢磨 / 宝島社文庫

Photo さほど名文とも思えなかった『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズだが、その実、その文体やストーリー展開がいかに普通に、違和感なく読めるものであったかをしみじみと教えてくれるのがこの『珈琲店タレーランの事件簿』である。

登場人物の誰もがどこか粗野で、他者を省みない。「んぐぁ」を連発してばかりの主人公もおよそ魅力的とは言いがたい。一方、珈琲という大人の時間を埋める嗜好品を小道具としたため、安っぽいキャラクターとの齟齬がバタついた読後感を残す。
たとえば、本当の珈琲好きが、作中の騒々しい喫茶店に通いたいと思うだろうか。いや、苦笑いして早々に席を立つに違いない。インスタント珈琲でも、静かに時を過ごせるなら、それなりに美味しく飲めようというものだ。

厳しい言い方をするなら、子供が背伸びして書いたとしか思えない。ギャグならギャグでよかったのに、知的な洞察だの、珈琲の蘊蓄だの、小賢しく気取ろうとするからややこしいことになる。

シリーズ3冊ともたくさん売れているそうだが、1冊で十分。ごちそうさま。

2014/04/17

『ウミウシ学 海の宝石、その謎を探る』 平野義明 / 東海大学出版会

Photo 「先輩、見ました?」
「むう。見えるぞ、私にも見える。ピンクのイチゴ柄」
「じゃなくて、先月のNHK、『ダーウィンが来た』ですよ」
「ダーウィン? ……ああ、ダーウィンね。知ってる知ってる。中、高で同級だった。トイレでタバコ喫って停学くらったの」
「(無視して)3月16日放送分は相模湾のウミウシを扱った『自由奔放!海の冒険者ウミウシ』で、映像の美しさといい、ウミウシの生態の不可思議さといい、素晴らしい内容でした」
「それを黄色い水着のギャルがつんつんっ」
「水着の女性は出てきません。ウミウシというのは、巻貝の一種が進化の過程で身を守る貝殻を捨て、その代わり自在な姿、暮らしを得た、そういった生物なのですね」
「なに。水着さえ脱いで。ぷふーっ」
「(再度、無視)というわけで、さっそく日本橋の丸善で東海大学出版会『ウミウシ学』を買ってきました。これがそうですね。ウミウシを姿かたち、生態、解剖学的な違いで分類、わかりやすくまとめてくれた本です」
「グラビアが弱ーい」
「おや、めずらしく会話がかみ合いました。本書は、『学』というくらいですから、ウミウシをビジュアルに紹介するのがメインではありません(そういう写真集はちゃんと別にあります)。巻頭に著名どころを掲載したカラーページが8ページほどあるのですが、それぞれの写真が小さいため、『海の宝石』とまで称されるウミウシを紹介するには今ひとつですね」
「ウシー」
「……まさかと思いますが、『惜しい』のシャレ……?」
「ウミ、ウミ」
「(当然、無視)圧巻はテレビ番組でも取り上げられていたムカデミノウミウシ(番組ではブルードラゴン)の生態です。なにしろ、渦鞭毛藻類を食べてその光合成で栄養補給する。ヒドロ虫を食べてその刺細胞を取り込んでサカナから身を守る。敵の武器を取り込んでどんどん変身を重ねるアニメのモンスターさながらです」
「あるある。最後に主人公を取り込もうとして、そのあまりに強大なエネルギーに『ま、まさかーっ』とか叫んで爆発してしまうタイプ」
「あと、すごいのはウミウシのナイトライフです。3P、4P、当たり前。相方の体の場所選ばずプスプス突き刺す子作りなんてのもあるらしい」
「うう、俺のご先祖様は奔放なウミウシだったのか」
「そう言いながら彼女のいない先輩より、相手のいるウミウシのほうが格段にもてる」
「げろん、言葉の刺細胞がちーくちくちく」
「最終章のウミウシの分類も興味深い。外観が似ているから、生態がそっくりだからといって近い種というわけでもないのですね」
「で、俺のご先祖は、この分類表だどこらへん?」
「いえ、先輩は単細胞ですから、この表には。ただ、ウミウシとの類似点ならほかにも」
「カラフルでポップで水着ギャルにもてもて!」
「いえ、どちらも煮ても焼いても食えない、と」

──おあとがアメフラシ。

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