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2014/03/05

これは絵だ、図案ではない 『貴婦人と一角獣』 トレイシー・シュヴァリエ、木下哲夫 訳 / 白水Uブックス

Photo本書『貴婦人と一角獣』は、昨秋日本でも公開されて話題になったヨーロッパ中世を代表するタピスリー(タペストリー、綴れ織りの壁掛け)「貴婦人と一角獣」の織られた時代を空想の羽を広げて描き上げた作品である。
15世紀末に織られたらしいこと以外、詳細の明らかでない「貴婦人と一角獣」は「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」の五感を表すと言われる5枚に加え、背景のテントに「我が唯一の望み」と書かれた1枚の、合わせて6枚からなる。

小説はパリの王侯ジャン・ル・ヴィストが絵師のニコラ・デジノサンにタピスリーの下絵を依頼(もともとは会戦図の依頼だったが奥方が覆した)、そのニコラがタピスリー工房のあるブリュッセルに赴き──という前後のいきさつを、登場人物が入れ替わっては語る形式をとる。

絵師ニコラはタピスリーの下絵として一角獣を手なずける貴婦人を主題とし、物語があとから「視覚」や「嗅覚」、「触覚」を追いかけて意味づけていく。
なんらかのいきさつが先にあり、それに深く感化されて下絵に五感を扱う──そのほうがストーリーとして自然かと思うが、こういう恋愛小説はそのあたりはアバウトでもよいのだろうか。

結局、作者はパリとブリュッセルを舞台に絵師やタピスリー工房一家の仕事ぶり、恋愛模様を描くだけで、謎とされる「貴婦人と一角獣」の図案の意味を追う意識はさほどなかったのかもしれない。
全体を俯瞰すると、ニコラという手の早い絵師が国をまたいで若い女と一儀に及ぶ、ないし及べない、それだけといえばそれだけの話だ。女とみれば声をかけるニコラの側はともかく、出会う女が次々ニコラになびく心理が十分でなく、結果として調子のよいソフトポルノに読めなくもない。

ただ、ブリュッセルのタピスリー工房の道具立て、几帳面な作業の描写は圧巻だ。
糸や顔料、背景の千花文などタピスリーならではの図案扱い、仕上がるまで職人自身がタピスリーの全体を見ることができない工程など、ヒロインを一人工房の娘アリエノールにしぼり、その部分だけ切り取って映画に撮ってみたい。それは十分見応えのある、美しい映像となるに違いない。

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