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2014年3月の7件の記事

2014/03/24

せんよ 言わんよ 『うちの妻ってどうでしょう?(6)』 福満しげゆき / 双葉社 ACTION COMICS

Photoマンガの連載が続くと、例えば、こう…詳しくは書きませんが、登場人物の顔が変わってくることがあるじゃないですか。なんか顔が細長くなったり、劇画みたいな細い線でしゃっしゃっと影がついたりして。例えばの話ですよ? でもこっちは最初の頃のカワイくて何を考えているのかわからない妻がよかったりするとしまして。で…新刊が出ると、妻の顔が違うわけです。内容も、コミュ障とかいっていかにも毎日傷ついて……いや! 待て! 本当にそうでしょうか! まあコミュ障なのは本当とします。でも、それで子供も二人いて一戸建てまで買ってしまうのはどうでしょう。そんな新刊を買ってしまって内心ハラワタが煮えくり返るということはないですか?

……と、今回は福満しげゆき調で押し通してみようかと思ったが、けっこう体力を消耗するのでやめた。

それにしても福満しげゆき。一コマで誰の作品かすぐ特定できる。いわゆる「文体」をもっているわけである。小説家でいえば冒頭の3行で特定できるレベル。もう亡くなった作家を含めても野坂昭如、星新一、宇能鴻一郎、庄司薫……そうたくさんはいないような気がする。
ちなみに、福満の文体はマンガに限らない。あとがき数ページ、いや、とりのなん子のパロディ作の欄外にほんの数行書いてもきっちり福満だ。そのあたりがすごい。

ところで、以前、女流マンガ家の作品に自宅建築を扱った作品が多いのは、彼女たちならではの「無頼」の現れなのではないかと書いたことがある。
かつて文人たちが酒にひたり、女に溺れ、放蕩、破滅をうそぶいてみせたように、現在の女流マンガ家たちは不安定な収入、不規則多忙な生活の中で家を建てるという無理無茶無謀をしでかしてみせる。「家宅の人」となる。それを描く。そして作家としての心のバランスを取る、等々。

そこで福満だ。今回の『うちの妻ってどうでしょう?』でも作者が一戸建てを買うにいたるいきさつが描かれている。そこで「事故物件」に手を出すあたり、マイルドになってもさすがは福満! と思ってみたりするのだが……どうでしょう。どうですか?

2014/03/17

最近読んだコミックスから 『瞬きのソーニャ』(2巻) 弓月 光 / 集英社ヤングジャンプ・コミックス

Photo茫然の1巻からおおよそ2年ぶり。
不定期連載、掲載誌休刊という悪条件を鑑みれば(これでも)思ったよりずっと早い。

前巻同様、ストーリーも設定もすべて重い。ソーニャの肉体も見かけの倍重い。
圧殺されたり腕をむしり折られたりする、人の肉体も水のようにずっしり重い。
濃密な時間という液体の中、ソーニャだけが魚のように動く。

今回はソーニャがホワイトハウスを襲撃することで、信頼できる味方を一人得、新たな強敵が一人登場する。
この作者らしい予定調和と言わざるを得ないが、本作に限り予断は許されない。

ドストエフスキーのソーニャやネルリ、マンのショーシャ、鈴木喜緑のカーチャなど、エキセントリックで一途で魅力的なロシア女性の血族に『瞬きのソーニャ』はまた名を刻むと思う。

2014/03/12

最近読んだコミックスから 『茶柱倶楽部 (5)』 青木幸子 / 芳文社コミックス

6お茶ではないが単行本によって一期一会香り味わいの化ける当シリーズ三巻の大半を費やした台湾編はお話こそカテキン濃縮だがその分茶々も入らぬ深蒸し展開に稀代の能天・・もといラッキーガール鈴の魅力発露とは言い難く、苦み渋みが口に勝った。続く四巻はその出がらし、お茶を濁した印象なきにしもあらず、最新の五巻にいたってようやくあのお気楽極楽織部の鈴が戻ってきた。絵柄こそ葉も茎も荒いが番茶も出花、ことに鈴を彩る手描き鮮らかな「ホカ ホカ」「むず むず」のオノマトペが分福茶釜、悩み抱える人々にお茶を手に現れる鈴はほとんど幸運の女神の如し、理性のLEDは「なんの茶番狂言」と明滅するも一服の楽しさにずぶずぶ敗北喫してすみませんもう一杯。お茶の子さいさい簡単なお茶の楽しみ方も数々紹介されて日本茶や烏龍茶を扱う店頭には「ご自由にお読みください」と本書一揃え推奨、ニッポン茶々々。

2014/03/11

最近読んだコミックスから 『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』(現在2巻まで) 森田 崇 / 小学館クリエイティブ ヒーローズコミックス

2ルパン三世の人気が高まれば高まるほど、モーリス・ルブランによる本家ルパンは本棚の隅に埃をかぶる。
無骨な親爺ルパンが「あんたが」「わしが」と凄んでみせる古臭い翻訳もまずい。

そんな中、森田崇はイブニング誌上『アバンチュリエ』で若くてスリムで颯爽としたルパンを描いて見せるも、いかんせん5巻で打ち切り。幸い、Twitterも駆使して“少々足掻いて”(本人談)みた結果、月刊ヒーローズでめでたくも再開されることになった。
(イブニング掲載時の単行本についてはこちらこちらを参照。)

ヒーローズ版1巻の「公妃の王冠」、2巻の「ユダヤのランプ」とも、レディを尊重するという一種の騎士道精神が探偵側、ルパン側双方の足かせとなっているのが時代を感じさせて面白い。これらの女性がただ守られる側から立ち上がるまで、あとほんのわずかだ。

もう一つ、2巻の終幕、カレー・ドーバー間の連絡船上で休戦協定を結んだショームズとルパンの過ごす、ゆったりした時間が心地よい。この作者が(トリックやプロット以上に)「空気」を大切にしていることがよくわかる。

2014/03/08

最近読んだコミックスから 『乙嫁語り』(6巻) 森 薫 / エンターブレイン BEAM COMIX

Photo乙嫁語り』、新刊。

漁師村の双子、ライラとレイリの華やかでにぎやかな結婚式も一段落、舞台はアミルとカルルクの街に戻る。
アミルの実家、ハルガル家が、遠縁の有力部族と組んで街に攻め入ってくる。復讐と焦りに暴走するアミルの父ベルクワト、兄アゼルの苦悩。
謀議、背信、「前にいるのは全員 敵だ」と、なかなかに殺伐とした1冊。

そこここにあふれ返る騎馬、戦闘シーンの描画がすさまじい。
資料をそろえ、想像し、締め切りに追われつコマを埋める作業は酷であろうに、全編にみなぎるこの喜びの声は何。
描画の鬼神の如し。

2014/03/05

これは絵だ、図案ではない 『貴婦人と一角獣』 トレイシー・シュヴァリエ、木下哲夫 訳 / 白水Uブックス

Photo本書『貴婦人と一角獣』は、昨秋日本でも公開されて話題になったヨーロッパ中世を代表するタピスリー(タペストリー、綴れ織りの壁掛け)「貴婦人と一角獣」の織られた時代を空想の羽を広げて描き上げた作品である。
15世紀末に織られたらしいこと以外、詳細の明らかでない「貴婦人と一角獣」は「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」の五感を表すと言われる5枚に加え、背景のテントに「我が唯一の望み」と書かれた1枚の、合わせて6枚からなる。

小説はパリの王侯ジャン・ル・ヴィストが絵師のニコラ・デジノサンにタピスリーの下絵を依頼(もともとは会戦図の依頼だったが奥方が覆した)、そのニコラがタピスリー工房のあるブリュッセルに赴き──という前後のいきさつを、登場人物が入れ替わっては語る形式をとる。

絵師ニコラはタピスリーの下絵として一角獣を手なずける貴婦人を主題とし、物語があとから「視覚」や「嗅覚」、「触覚」を追いかけて意味づけていく。
なんらかのいきさつが先にあり、それに深く感化されて下絵に五感を扱う──そのほうがストーリーとして自然かと思うが、こういう恋愛小説はそのあたりはアバウトでもよいのだろうか。

結局、作者はパリとブリュッセルを舞台に絵師やタピスリー工房一家の仕事ぶり、恋愛模様を描くだけで、謎とされる「貴婦人と一角獣」の図案の意味を追う意識はさほどなかったのかもしれない。
全体を俯瞰すると、ニコラという手の早い絵師が国をまたいで若い女と一儀に及ぶ、ないし及べない、それだけといえばそれだけの話だ。女とみれば声をかけるニコラの側はともかく、出会う女が次々ニコラになびく心理が十分でなく、結果として調子のよいソフトポルノに読めなくもない。

ただ、ブリュッセルのタピスリー工房の道具立て、几帳面な作業の描写は圧巻だ。
糸や顔料、背景の千花文などタピスリーならではの図案扱い、仕上がるまで職人自身がタピスリーの全体を見ることができない工程など、ヒロインを一人工房の娘アリエノールにしぼり、その部分だけ切り取って映画に撮ってみたい。それは十分見応えのある、美しい映像となるに違いない。

2014/03/02

取り返しをつける 『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』 ロバート・K.・ウィットマン ジョン・シフマン 著、土屋 晃・匝瑳玲子 訳 / 文芸社文庫

Photo以前紹介した『ムンクを追え!』によく似た内容、構成なのだが、大西洋を西に渡ると美術品盗難捜査もしっかりさま変わりするようだ。
『ムンクを追え!』ではヨーロッパの城館から盗み出された名画の探索を元ロンドン警視庁美術特捜班の捜査官がウィットと薀蓄を傾けつつ語る──そんな印象だった。それに対し、本書『FBI美術捜査官』の冒頭はいきなりこれだ。

パルメット・エクスプレスウェイに乗って東へ、マイアミビーチに向かって走るプラチナのロールスロイスは防弾ガラスを入れ、装甲を施したそのトランクには盗品の絵画六点を積んでいた。

今にもビッグバンドによるサスペンスドラマのテーマソングが聞こえてきそうだ。なにしろあのFBI、アメリカ連邦捜査局である。

ただ、美術品の盗難に対する捜査官の姿勢や信念は両著に共通で、本書の著者も次のように語る。

美術品泥棒はその美しい物体だけでなく、その記憶とアイデンティティをも盗む。歴史を盗む……われわれの仕事は歴史の一辺、過去からのメッセージを守ることにある。

つまり、美術品捜査においては盗難品を取り返すことこそ至上命題であり、犯人探し、売人逮捕は二の次なのだ。

とはいえ、国が変わると盗まれる美術品の種類もいささか異なってくる。FBI捜査官の捜査対象にはロダンやブリューゲル、レンブラントといった西洋美術大御所の作品もあるが、たとえば
  南北戦争の戦火をくぐり抜けた戦旗
  アメリカ・インディアンの頭飾り
  9・11テロで破壊されたツインタワーの描かれた絵画
  合衆国《権利章典》の写本
などいずれもいかにもアメリカだ(表紙のフェルメールを除き、資料写真が一葉も掲載されていないのが実に惜しい)。

それら盗難品奪還に成功する章が次から次へと続き、三十を越えてあこがれのFBIに入局し、2004年時点で唯一の美術品盗難専門の潜入捜査官だった語り手の明朗闊達な成功談……そう思い込んで読み進むと、ときどきひどく苦い塊を嘗めることになる。
正義も甘いばかりではない。

それにつけても、こと美術品泥棒は、犯行までは比較的簡単だが、換金するときが大変だ。その意味では誘拐とおっつかっつかもしれない。
年度末に向け何かと物入りな今日この頃ではあるが、美術品泥棒と誘拐はとりあえずやめておこうと心に誓う夜更けの烏丸であった。

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