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2014/02/09

わたしたちはだいじょうぶ 『百瀬、こっちを向いて。』『吉祥寺の朝比奈くん』 中田永一 / 祥伝社文庫

Photo一部の小説から輻射される「切なさ」ときたら本当に不思議なもので、悲劇的な作品ならいざしらず、ハッピーエンド、はてはホラー作品から発振されることだってある。
そんなことを実例で立証してくれているのが乙一の一連の作品なわけだが、「中田永一」というどこやらの市会議員みたいな(ほんとにいたら失礼)作家の本の紹介になぜ乙一が出てくるかといえば、この名は乙一の別名義、当初は覆面作家として登場したものだからである。
(ちなみに乙一は山白朝子名義で『死者のための音楽』などのホラー作も上梓している。今後どの名義が主となっていくのかさっぱりわからない。)

『百瀬、こっちを向いて。』『吉祥寺の朝比奈くん』はいずれも「青春恋愛小説」と称するにふさわしい胸しめつけられる短編集。とはいえ主人公は作中の「人間レベル2」「薄暗い電球」(「百瀬、こっちを向いて。」)などの自虐的比喩が示すとおり、いずれも教室の隅のほうで類友とひっそり身をひそめる地味者ばかり。ところが、己には決して恋愛なんていう華々しい出来事は起こらないものと世界から顔をそむける彼らに、ある日突然……。

だが、ライトな言葉遣い、甘酸っぱい味付けに騙されてはいけない。

この書き手は高度なテーブルマジックの演者同様、熟練の技巧者なのである。
読み手の目をくらますためならどんな酷い話でも平気で書く。ちょっとコミカルで変わった展開なんて油断してはいけない。終盤、思いがけない舞台返しが待っている。そしてそのとき、主人公には最初の最初から舞台の書割が全部わかっていたことが明かになる。
これは作者が方程式の正しい解を求めるようにとことん計算し、設計し、練り上げ、乾かした成果である。

外見と精神の良し悪しを総合した「人間レベル2」の説明に主人公はこう語る。
「なぜレベル1ではないかというと、自分が最下層グループに位置していることを自覚しているだけマシだからだ。」
そして事件はいずれも真実が明らかになることで解決する。そのとき世界は確かなものとなり、「わたしたちはだいじょうぶ」(「なみうちぎわ」)と化す。
それは、知の勝利、読書する者の夢だ。

これらの作品集は、青春恋愛小説のふりをした上質かつ知的なミステリ作品によって、読書家に勇気を与えるものである。

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