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2014/01/14

からだの中 『紅グモ』 楳図かずお / 朝日ソノラマ サンコミックス

Photo_2クモといえば『紅グモ』でしょう──となんの気なしにウィキペディアで「楳図かずお」を検索して驚いた。作品リストに『紅グモ』がない(2014年1月14日現在)。それはよろしくない!
『紅グモ』は1965年から66年にかけて少女フレンドに連載された作品。『へび少女』や『肉面』など、怪奇マンガ家のペンがノリにノッていた時期の作品の1つだ。

サンコミックス版を取り出して久しぶりに読み返してみた。ふうっ、やっぱり凄い。
もちろん半世紀も昔の作品である、絵柄は「ぬり絵」だしコマ割りも単純だ。
しかし現在の目から見ても、「これでもか」とばかり読者を怖がらせる手法の連発には圧倒される。

物語は「クモきちがい」(初出)を父にもつたか子と美也子という仲の良い美姉妹の視点で語られる。そこに恐怖マンガ定番の「あたらしいお母さん」登場! 彼女は目や鼻から動物のからだに入り込んで食い散らす「紅グモ」を利用して、その家の財産を奪おうとしていた……。

前半は、この継母の策略に紅グモを飲まされてしまったたか子の恐怖を描く。
まず特筆したいのが、『へび少女』などに共通する、不気味なモノを飲むことで自らが徐々に化け物と化してしまう状況である。それは外から怪物が襲ってくる状況とはまったく別次元の、生理的な恐ろしさだ。意図せず口からクモが飛び出す。糸が吐き出される。

紅グモに入り込まれたたか子は苦しんだあげく死んでしまうが、埋葬時にクモ毒から抽出された防腐剤を注射され、墓の中で息を吹き返す。いわゆる「早すぎた埋葬」だが楳図はそんな設定も数ページで素通りし、どんどん先に進む。ガリガリと墓を掘り返して復活したたか子は(これまた定番)白髪の老婆となってしまっていた。しかも体内には紅グモを抱え、彼女自身がクモの化け物と化しているのだ。ここまでたったの50ページ、速い。

全体を通して巧いと思うのが、迫りくる紅グモに対し、たか子や美也子が頼りにすべき周囲の者たち、クモ研究者の父親さえその恐怖を十分理解してくれないこと。ストーカーなどという言葉のなかった時代だが、楳図のペンは的確に現在のストーカートラブルに通ずる被害者の絶望を刻む。

このほか、本作には嵐の夜に窓の外から覗く怪しい影、壁や屋根をスルスル這いまわる異形の化け物、階段で引きずり上げられるヒロインなど、楳図得意の構図にあふれている。
勧善懲悪という観点なら巻の半ばで終わるべきところ、紅グモの恐怖がさらに広がっていくところも注目に値するだろう。恐怖の被害者を往々にして次シーンで加害者に据え換える、楳図かずおは優しくないのだ。

『紅グモ』はクモをモチーフとした恐怖マンガの傑作、というだけでなく、恐怖マンガそのものの典型としてもっときちんと再評価されるべきではないかと考える次第。たとえば、、、ごほん、ぺっ。や? 口からクモが。ササササ。

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コメント

いつの間にかWikipediaの「楳図かずお」のページに『紅グモ』が紹介されているもよう(2015年9月時点)。
それにしてもこの「連載作品」の項、年代順には並べられていないし、ウィキとしては考えられない薄さ。
本棚の整理がついたら手元にある資料だけでも提供できれば・・・。

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