『ふたり怪談 肆』 平山夢明・福澤徹三、『怪談五色』 黒木あるじ・黒史郎・朱雀門出・伊計翼・つくね乱蔵 / 竹書房文庫
──二人なら……二人ならきっとうまくいきますわ、教授。
──ど、どうしたのだね、突然、エリカくん。
──一人では無理でも、二人ならどんな困難でも乗り越えていけると思いますの。
──いや、た、しかし、そ、き、気持ちは嬉しいが、私にはつ、妻も子供も。
もちろん久々登場のエリカちゃんが手に取り話題にしているのは竹書房の『ふたり怪談 肆』である。平山、福澤と、実話怪談界において重鎮と崇めるもおこがましい、厭わしい、呪わしい連名だ。
考えてみれば当節の実話怪談ブーム、いくら語るほうもノリノリとはいえ、1人で文庫200ページ分の新作を蒐集するのは大変に違いない。もし1冊を2人で分担できるなら──といってもそれはあの『新耳袋』シリーズ以来の伝統ではあるのだが──品質、スケジュール、それぞれ余裕ができるに違いないのだ。
論より証拠、『ふたり怪談 肆』には「柿本は」とすべきところを「鴨木とは」といった入力ミスがあったり、ボーリングで指穴に捻じ切られるのが人差し指だったり、といった編集ミスが散見する(後者はそういう投げ方だったと言われればそれまでだが)。
1冊の半分でこれなのだ、1冊分まるままならさぞ締め切りが厳しかったことだろう。
一方、『怪談五色』にいたっては5人がかり。こちらもよい試みで、たとえば日常を語るエッセイでたらりたららと怪を語り降ろすもの(伊計)や学園祭で怪談を募集した記録(黒木)など、つまりはライブ的なスタイルの作品が収録されている。この2つはおそらく1冊まるまるとなると飽きるに違いないが、5人の凶作、もとい共作に含まれている分にはむしろバリエーションを楽しめてよろしい。
ちなみに5作中ではつくね乱蔵氏のいくつかの怪談が、波状というか、1つの怪異が弧を描いてじわじわ周辺に影を及ぼしていく、そんなアングルで面白かった。お隣の赤ちゃんも、角のお婆ちゃんも、死んでいくのである。
なお、『怪談五色』にも「暗証番号を入力しれないと入れない」といったケアレスミスがそのまま残っている。紙メディアの苦しいこの時代、外に校正出しもできないかもしれないが、この程度のボリューム、編集者はゲラの通読くらいしてもよいのではないか。
──怒られちゃった。あたしがいけないのね。
──い、いやエリカくん、そんなことは。
──いいえいいえ、あたしさえいなければいいんだわ。
──いや、その、うっうっうー、金縛り。
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